お年寄りとの会話

消防の業務の中に「独居老人宅防火診断」がありました。

以前にも書いたように、私は母方の祖母が大好きだったので、そういう仕事で出会うおばあちゃん達と接することが好きでした。

独居老人と行っても、「老人」の定義にあてはまる65歳ちょい過ぎくらいの方は、もう元気いっぱいで、

「一人住まいのお年寄りの家庭をまわっていまして」

なんて言うことがはばかられるくらいです。
70代以上の家庭を回ると、圧倒的に女性が多く、一人住まいでも元気いっぱいの人が多かったですね。

最初は台所まで見られることに抵抗があったおばあちゃんも、いろいろ話していると心を開いてくれます。

「まぁー、うちのこのきたない台所を見られるなんて」

「そんな、とんでもないですよ。うちなんかに比べたらここは綺麗で、まるで住宅展示場に来たようなもんですわ」

なんて調子で、こちらも徐々に笑いを取って行きます。

当時の私は、お年寄りから絶大な人気を得ていました。

「今朝、うちに来た人、ほんとで消防士さん?」

と、署に確認の電話をかけられる職員もいますが、私はそんなことは一度もありませんでした。

お年寄りと5分も話せば、非常に高い確率で、「まぁお茶でも飲んで」とお茶を勧められます。

そこで、こちらも、「体の調子はどうですか?」なんて感じで話しかけると、話題は体調のことから、都会で暮らしている息子さん達のことまで広がっていきます。

「あっ、そうだそうだ、あんたらの職場で飲んで。わたしゃコー
ヒーなんてよお飲まんのだが」」

と、コーヒーセットの箱を渡そうとするおばあちゃんもいました。

でも、消防職員といえば地方公務員です、まさかそれをそのままもら・・・

って帰りました。

他にも、近所タイヤキ屋さんからタイヤキを買って来て、まぁ食べろ、とにかく食べろ、何が何でも食べろ、というおばあちゃんもいました。

しかし、当時の私は地方公務員です。公務の最中にそんな供応接待を受けるわけには・・・

ということで、2個だけいただきました。さすが「公の精神」のみで動いていた私です。

他にも、まぁ食べろ、と煎餅やら饅頭を勧められることが多かったですね。

しかし、そんな明るいお年寄りばかりではありません。

行ってみると病気で寝込んでいる場合もありました。

ゴミ屋敷状態の家もありました。

病気で動けなくて、布団のまわりに鍋からなにから置いてある場合もありますが、ゴミの収集癖のある人もいました。

出て行った家族への恨みつらみを延々と語る人もいました。

そんな場合は、「そりゃ大変でしたね」と、とことん話を聞きました。

防火診断を終えて帰署すると、

「石川君、遅いじゃないか。まさかお茶飲んでたんじゃないだろうなぁ」

と言う当直司令に、

「何を言ってるんですか。消防官として住民の安心安全のために、非番日にこうして真摯に業務に当たっている私に対して、よくそんなことが言えますね。

当番明けに仕事入れられて、過労で倒れそうです。労働基準監督署に連絡入れますよ」

と、速射砲のようにくり出し、さらに、

「おっと、口に饅頭のあんこが付いてた」

と、ぬぐう仕草をしてみせて笑いを取るのは言うまでもありません。

これが今みたいに心理カウンセラーの勉強でもしていた日には、じっくり話を聞き過ぎて、

「あいつは帰って来んから、署から出すな」

なんて言われていたに違いありません。

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