どう猛な咆哮があちこちで聞こえる仮眠室で、とってもナイーブだった若い頃の僕はなかなか寝付けませんでした。

K署の仮眠室は、真ん中に通路があって、その両サイドに長~い座敷が続いていて、布団がずらりと並びました。

それぞれ通路側を枕に寝るのですが、夜勤には3名起こしていました。

当時は通信指令課はなく、各署がそれぞれ119番通報を受けていたので、2時間半ごとに3名が起きて通信勤務に当たりました。

そして、夜勤が終わりに一番下っ端の職員が次の勤務者を起こしに行きます。

懐中電灯を片手に起こしに行くわけですが、どこに誰が寝ているのかを確認するために顔面に灯りを照射しようものなら、

「眩しいだろうが!」

と、先輩に怒られてしまうので、通路に置いてあるスリッパで所在を判定するのです。

誰がどのスリッパを履いており、誰がどのコップでお茶を飲むのかを覚えておくのも下っ端の仕事でした。

スリッパを確認すると灯りを消し、ゆっくりと肩の辺りを揺すって起こすのです。

「仮眠」とは名ばかりで大熟睡の人もいるので、ゆっくりから次第に力を強くして揺すります。

いきなり大揺すりすると、仮眠室から出てからこっぴどく叱られるのです。

「山田さん、山田さん」とあくまで小声で、耳元に呼びかけます。

これが少し大きいと、今度はほかの人からお叱りを受けるのです。

なかなか起きない人がいるんですねぇ。

寝とぼけて、スクっと立ち上がるので、やっと起きてくれたか、と安心して次の人を起こしに行くと、またバタっと横たわったり。

立ち上がってトイレに行ったと思って安心してたら、用を済ましてまた戻って寝たり。

僕より3歳年上の先輩がいて、この人がまぁ寝起きが悪くて、そして機嫌が悪いんです。

「Iさん、Iさん」と言って起こすんですが、起きないので揺すり方を激しくしていくと突然、

「分かっとるわ!」

と怒りながら起きるのです。

ある日、なぜか当直司令の副署長が自ら起こしに行ったところ、Iさんがいつもの調子で、

「うるさい! 分かっとるわぁ!」

と激しく罵りながら起き上がったので、

「何ぃ、貴様ぁ、誰に向かってそんな口をきいとるんだ!」

とスゴイ状況になったことがありました。

目覚めて通信室に入ったIさんは、

「あのおっさん、何キレてんだか、まったく」

と呆れていました。

そんなIさんの言葉に、僕は呆れていましたが(^_^;)

まぁ、そんなのはまだいい方です。

寝言を言う奴がいるんです。

夜中に、「痛い! 痛い! 痛い!」とふいに叫びだす人や、「俺じゃないぞ」と意味不明なことを明瞭な口調で叫ぶ人や、うなされている人や。

一番迷惑だったのは、寝言で、

「火事、火事だ」

と言った奴がいて、何人もがガバっと起きだし、車庫に出て防火衣を着て、

「現場はどこだ? なんで放送を入れないんだぁ!」

と騒ぎになったことがあります。

某署では、その日の人数編成の関係で、夜勤が一人という時間帯があり、ある先輩が一人で通信勤務していたら、なにやらしゃべっているのが仮眠室まで聞こえて来たそうです。

あまりにもそのしゃべりが続くので、誰としゃべっているんだろうと耳を澄ましていると、

「あー眠たい、あー眠たい」

と、しきりに言っているので、こっそりと覗いてみると、椅子にのけぞって眠っていて寝言を言っているのでした。

「眠たい」という寝言を聞いたのはそれが初めてだ、と同僚は言っていました。

いろんな人がいました。