赤色灯を消し、病院を出る。

救急車の中から眺める夜の倉吉の町。

(どうして? どうしてこんなことになったの!?)

娘の声がまだ耳の中で響いている。

母親はそれに答えることができない。

いや、母親だけではない。誰もその問いに答えられない。

(どうにかして下さい! ねえ、どうにかしてぇ! 助けて下さい!)

こんな時いつも感じる無力感。

「帰署したら、夜食を食べるか?」

助手席から車内後方に向かって言う。

「イイっすねえ。焼きそばでもいっときますか」

隊員の声にも力がない。

呼吸停止からずいぶん時間がたっていた。

朝は普通に話していた母親が、もう二度と動かないのだという事実を、娘が受けいれるにはあとどれだけの時間が必要だろう。

俺たちの力が及ばなかったからじゃないんだ。

神様だって救えなかったのだ、とわかっていながらどうしても悲惨な情景が脳裏から消えない。

俺たちはただ遺体を運んだだけなのか。

(お母さん、がんばって! がんばって! 返事してぇ!)

どうがんばったらいいんだろう、と僕は思う。

どうがんばったらいのか俺が教えてもらいたい!

そう、誰に訴えたらいいのか、教えてもらいたい。

ほんとは、俺はどうやって生きていけばいいんだ?

俺はほんとに生きているんだろうか。

交差点で他署の救急車とすれ違う。

サイレンの甲高い音が、すれ違いざまに急に音階をおとして遠ざかって行く。

俺、生きているんですか?

俺、ほんとに生きているんですか?

どうにかしてください! どうにかしてください! 助けてください!

そう叫びたい気持ちを抑えて、隣でハンドルを持つ機関員に話しかける。

「ラーメンがいいよなぁ」

言い終わらないうちに無線が次の出動要請場所を告げる。
・・・・・俺、生きているんですか?