地獄の睡魔

若い時ほど眠いものです。

その若い人にとって夜間の通信勤務ほど苦痛なものはありません。

夜10時から2時間半ずつ、朝まで交代で勤務につき、119番を受けるのです。

今では、鳥取県中部消防も通信指令課ができ、都会の消防並に119番通報があればディスプレイの地図上に発信地表示するので、効率もよくなりました。

が、かつては一人が電話を受けると、もう一人が地図をひろげて場所を探すという超アナログな世界でした。

119番で、たとえば火災通報が入れば場所の確認だけすればいいかというと、そんな楽なものではなくて、消防団への連絡のために市役所へ連絡、消火栓の水圧を上げてもらうために水道局へ連絡したり、警察、電力会社などへ連絡します。

その間も出動隊と無線のやりとりをしつつ、じゃんじゃんかかってくる問い合わせの電話の応対もやります。

なのでひとたび火災を受信すると大忙しになりました。

逆に、通報がない時、特に夜間は暇なのです。

昼間の過酷な訓練で疲れた身には、深夜2時間半の通信勤務は苦行でした。

優しい先輩、もしくは自ら通信指令台につっぷして眠ってしまう先輩と一緒の時には安心して後を追って睡魔の海に突入してしまうのです。

しかし、そこは消防です、生真面目一方で絶対にコクリともしない鉄人もいるし、後輩が少しでもクラっとすればすかさず叱りつけるために見張る先輩もいます。

当日夕方発表の夜勤編成表を見て一喜一憂していました。

鬼の上司と一緒になったら一巻の終わりです。

昔は煙草に関して鷹揚な時代だったので、通信室の片隅の換気扇の真下のスペースで吸うことができました。

居眠りでもしたら鬼上司にどんな目にあうか分からないので、眠くなると煙草を吸うために移動して、少しでも眠気を覚まそうとします。

あの、睡魔に耐える1分1秒の長さ、あれはもう体験者でなければ理解してもらえないかもしれません。

指令台に座る上司に背を向けて、煙草をくわえるわけですが、背を向けた瞬間にまぶたは閉ざされていますから、煙草がポトと床に落ちたり、くわえたまま居眠りして火傷したりと、結局叱られることになるのですが。

「眠い、あー眠い」と寝言を言う気持ちも分かります(^_^;)

メンバーによってはもうノンストレスで夢の世界へ行ってしまうケースもままあるわけです。

ある先輩は、両腕重ねた上に顔面をのせて夢の世界に行っていたところに119番が入り、パニクりながら取ったそうです。

当時、30年以上前ですから、ヘッドセットなどではなく、受話器だったので、それを取ろうとしたら、顔面をのっけていたせいで腕がしびれてしまい、握ったはずの受話器を「ガンッ」と下に落としてしまったそうです。

通報者の耳には相当な衝撃音が響いたに違いありません。

ある後輩は、夏の暑い夜だったので、指令台に向かい、肘置き付きの椅子に座りました。

その椅子は、逆L字型で、背もたれ側に隙間があるタイプだったので、後輩は作業服の袖の中にその肘置きを通して、

「あー、ひんやりしてたまらんわぁ」

などと言いながら座っていたところに119番が鳴り、取ろうとするんですが、袖の中には肘置きが通っていますから、腕を伸ばそうとしてもどうしても取れなくて(当たり前やがな!)あたふたしていたところ、もう一名がまわりこんでようやく取ったという人騒がせな話もありました。

たぶんその何秒かは、凍り付くような時間であったと思います。

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