小芝居をする容疑者

以前、T消防署に勤務していた頃、署の真ん前にある警察署に何度か救急出動したことがありました。

取り調べ中の人が意識を無くして倒れた、という要請で行って見ると、頭髪を金色に染めた悪そうな顔したお兄さんが椅子に座ったままぐったりしていました。

人を外見で決めつけるようなことは、消防職員としても人としてもあるまじき行為であると、私は常日頃から考えていました。

人権についても講演もやっているくらいですから、そのあたりはビシっとこう一本筋が通っているのです。

ただ・・・まぁなんというか、顔つきが見事にワル顔していて、事前に「大麻」系の所持かなんかなんかで捕まった人だという話を聞いていたので、いかにもそっち系のビジュアルだなぁと思いました。

暴れられたらやっかいだなぁ、なんて思いつつ観察すると、ぐったりとして意識がないのです。

脈拍も呼吸も異常はないのに、です。

いくら呼びかけようが、体を揺すろうが反応なし。

ストレッチャーに載せて運ぶ時、チラッと、ほんの少し瞼を開けてこちらを見たのを私は見逃しませんでした。

「急に激しくひきつけて倒れた」という要請内容だったので、もしかしたら最初はほんとの発作だったのかもしれませんが、到着時点では意識晴明だったはずです。

小芝居すんなよ、と思いながら運びました。

けっこうこの意識ないぞ的な小芝居って多いんです。

交通事故ではしばしば小芝居運転者に遭遇しました。

飲酒運転の単独事故に多く見られました。

商店に突っ込んでショーウィンドウを派手に壊して止まっている車両運転席で、ひたすら目をつぶってうつ伏せていたりします。

骨折どころか、出血も打撲もなくほぼ無傷状態なのに、目を開かない。

開かないどころか、「不必要にまぶたに力が入っているんですけどぉ、この人!」と言いたいくらいです。

救急車内に収容したあと、意識レベルの確認で必要な瞳孔のチェックをやります。

ペンライトを取り出し、必要以上に長く光線を照射するのです。

すると、意識を消失しているはずなのに、マブタに力が入るのです。

しかし、そんなことはおかまいなしに私の指はその人のマブタをギュッと開いてあげているのです。

バツの悪さが極まって、「もう意識ないフリしかない」と思ったんでしょうね。

つかの間の現実逃避もむなしく、病院ではドクターにビシビシ言われて、しかたなくマブタを開けるほぼケガなしのお兄さんでした。

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