今までの人生で、自分がなるなんて一度も考えたこともない消防士のことを真剣に考えるようになりました。

そうか、ふんだんに自分だけの時間があるなら、「死ぬまでに読みたい本リスト」をクリアできるかもしれないではないか、と。

「でも、おっちゃん、消防って封建的な職場でないの? 上下関係が厳しいだろうし」

「なにがそんなことあるもんか。心配あらへんぞ。晩御飯なんか一緒に作って食べて、みんな仲良しだ。仕事中も火事や救急がなかったら、なんもすることあらへんし、好きなことできるぞ」

そうか、あわよくば夜勤でさらに本を読んだりできたりして。

「こんな田舎であんな高い給料もらえるところは他にあらへんぞ」

マジでか! 本、めっちゃ買い放題やん!!

そんな感じで、結局就職しちゃいました。

当時はまだ鳥取県に消防学校がなくて、半年間見習いで、毎日消防署に通って・・・

訓練、訓練の日々でした。

毎日、めまいがするくらい走り、ホースを延ばし、ロープを渡り、ハシゴを登りました。

housui

「おっちゃん、話が違うで! 楽だって言ってたやん。とことん体力勝負の世界だで」

「あのなぁ、見習い期間だけだ、そんなもん。正職員になってみぃ、今の生活が嘘みたいに楽になるぞ。まぁ、ほとんど遊びに行くようなもんだ」

そ・そうなのか・・・、遊びに行くようなノリでいけちゃうのか。それなら半年間、なんとか耐えるか。その後には、読書三昧のバラ色の毎日が待ているんだからなぁ。

どこまでも楽観的な男でした。

それにしても、人間ってすごい生き物です。

あれだけ運動音痴で運動嫌いな私が、毎日毎日走っていたら、意外に走るの速いやん、ってことに気づいたり、嫌いだった縄跳びの2重飛びが連続でできるようになったり、腕立て伏せも懸垂も腹筋もかなり回数こなせるようになりました。

河川敷の広場で連日汗だくになって訓練しました。ヘロヘロになっては這うようにして汚い川の水を飲んでいました。

救助訓練で水平に張ったロープを何度も渡ったあとなど、もどしそうになり、昼の弁当も食べられないこともありました。

仕事から帰ると、読書しようと思っても、1ページも読まないうちに意識消失してしまいました。

当時、まだ週休二日制になっていなくて、土曜日は半ドン(懐かし~、この言葉)でした。

土・日はデートがあるので本もそれほど読めませんでした。

まぁそこは22歳の健康な男子ですから仕方ありません。

しかし、なんだこの連日のハードな訓練は、と筋肉痛に悩みながら思いました。

も・もしかして・・・だまされたかも・・・とようやくそう思うようになりました。