酔っ払い搬送依頼

消防士時代、いろんなトラブルに見舞われました。

といいいますか、そもそもトラブルな現場に行くわけですから、当たり前とも言えますが。

救急現場なんて、トラブルの宝庫でした。

間違いなくトラブルぞというパターンもあります。

旅館・ホテルで酔っぱらった客を搬送して欲しいという要請です。

はっきり言って、わざわざお金払って酔っぱらいに来ているようなもんじゃないか、と言いたいわけです。

社員旅行だったり仲良しさんのグループ旅行だったりしますが、日常生活から離れて楽しんじゃっているわけです。

救急隊が駆けつけると、そんな中のお酒に飲まれるタイプの人がロビーで倒れてたりするわけです。

こちらからすると、そんなもん部屋に連れて帰って寝させろや、ってなもんです。

旅館・ホテル関係者も、無用なトラブルを避けたいために、安易に要請する傾向にもあります。

もっとも多いパターンを再現します。

「わかりますか? 大丈夫ですか?」

と呼びかけると、本人は横たわったまま頭の向きを変えて言います。

「お前らなんだ?」

お前こそなんだ!? とほんとは言いたいのをこらえるわけです。

「こんなところで倒れておられるので、心配して要請されたんですよ」

「なんでだよ! 俺は救急車なんか呼んでないぞ!」

「あなたはここで倒れていたから、同僚の方が心配して119番されたんですよ」

訳の分からない幼子に噛んで含めるように話します。

すると、倒れていた男が起き上がろうとするわけです。

「大丈夫ですか? 苦しかったら無理に起き上がらないほうがいいですよ」

「うるせぇ、馬鹿ぁ! 俺はなぁ、これぐらいの酒、なんともないんだ。いいから帰れ!」

当たり前だぁ、それくらいの酒で正体無くすな、この馬鹿ぁ!

と言いたいのをグッと我慢するのです。

酔っぱらいは立ち上がろうとするものの、よろけまくりなのです。

「触るな。この野郎! お前らになんかなぁ、用はないんだ、この野郎」

と、なぐりかかってこようとするものの、足下が定まらず、またも倒れてしまうのです。

それを助け起こそうとする隊員を、その大馬鹿野郎は蹴るのです。

まぁ、そんな酔っぱらいに蹴られても痛くもないわけですが。

「おい、もういい、帰ろう」

と隊長だった私が言うと、その大馬鹿野郎の同僚が、今度は詰め寄ってくるわけです。

「おい、こんな状態の人間をほったらかして帰るのか!」

彼らも酔っているので、変な友情物語的な気分にひたっているわけです。

「あなたねぇ、今見ました? うちの隊員が蹴られてるんですよ。あなたの同僚に暴力を振るわれたんですよ。

あれが急性アルコール中毒に見えますか? そんな状態の人間が暴力なんか振るえますか?

おたくら同じ会社の仲間でしょ。そんな仲間が酔っぱらってロビーで寝ているんなら、部屋に連れて帰るくらいするのが普通でしょ。

暴力振るわれたってことは、刑事事件ですよ!」

普段よりボリュームを5割増しくらいにして、他の宿泊客が大きくうなづく気配もちゃんと察知して、同意を求めるように周囲を見渡して言いました。

もちろん、その場合、同僚達の雰囲気を読まなければなりません。

これが血の気の多そうな、「なんじゃこらぁ」的につかみかかりそうな相手だと、言い方を変えねばなりません。

それにホテルの関係者や、野次馬的に集まって来た宿泊客にも、状況を説明し、「そりゃ搬送なんかしてられないわ」というふうに納得させて帰らねばなりません。

私が出動した救急ではありませんでしたが、こんな現場では、後日苦情の電話がかかってきたりします。

救急隊員が救急現場で粗暴な言葉を発していたとか、病人をほったらかして帰ったとか。

電話での対応も、これまた対応する人間によっては、相手の怒りにかえって油を注ぐようなことを言ってしまう職員もいました。

クレーム電話にも、その程度の状態で救急隊が出動することによって、万が一、一分一秒を争う、生命の危機に瀕している傷病者への対応が遅れて、死に至らしめる結果になる可能性もあるのだ、と言うことを諄々と説かなければなりません。

やっぱりお酒はほどほどに、と自分に言い聞かせています(^_^;)

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