阿鼻叫喚! 路上絶叫パフォーマー

ずいぶん前ですが、深夜に自殺予告電話があり、救急出動したことがあります。

それまでも何度もそういう予告119番を受けたことがありました。

自殺予告電話があれば、狂言かどうか電話で判断できないので、当然現場に駆け付けるわけです。

すると60代の女性が路上に寝そべり、足をジタバタさせて絶叫していました。

周囲には近所の人達がパジャマ姿で出て来ていて、絵に描いた野次馬状態で覗きこんでいました。

「ひぇぇぇぇぇ~~~!!!」

と絶叫しつつ、その女性は足をバタつかせていました。

サスペンスドラマなら目にすることができますが、現実社会でなかなか60代の女性が道のまん中で大騒ぎする光景には出会う確率はかなり低いと思われます。

駆け寄って、私が耳元でやさしくなだめながら事情を聞こうとしました。

「わたしのことはほっといてぇ! わたしはもう首をくくって死ぬつもりだー! その準備もちゃんとしてるんだよぉ!」

ふいに立ち上がり、数歩あるいては、また勢いよく倒れて悲鳴を上げました。

かなり飲酒しているようでした。

私は再挑戦して、さらに大きな声で「まあまあ、大丈夫だから落ち着いて」などと、何がどう大丈夫なのかまるで計算もなく言葉を発しながら、どうこの状況を終息させたらいいのか、考えていました。

救急隊員は3人ですから、その気になれば力づくでストレッチャーにベルト固定して搬送するのはすぐに出来ます。

でも、じゃあどこへ搬送すればいいのか、ということになります。

単なる酔っ払いを搬送しても、ドクターからお叱りを受けるのは我々です。

そうこうしているうちにパトカーが数台やって来ました。

聞いてみると、119番だけではなく、自ら110番にも自殺予告電話を入れていたと言うのです。

救急隊員の接遇とはかなり方向性の違う切り口で、警官は彼女に問いただしました。

が、その態度はさらに彼女の積極的過ぎる表現に油を注ぎました。

悲鳴は「ひぇぇぇぇぇ~~~!!!」から「ぎゃあぁぁぁぁぁ~!!!」に変わり、

その合間に「これから死ぬ」「ホントで死ぬ」「生きてても苦しいだけだ」「ほっといて」「(私に)かまうな」

などのいくつかのキーワードをランダムにちりばめて叫んでいました。

彼女はふいに警察官の手を振りほどき駆け出しました。

あわてて一人の警察官が追いかけ、その腕をつかむと、彼女はつかんだ警察官の腕に噛みついきました。

「ひぇー!」

と叫んだ警察官だったが、そこはさすがてだれの巡査部長(たぶん)である。

それにひるまず、女の腕を容赦なくねじ上げたのです。

「あいたたたたぁぁぁ~!!」

女はさらにボリュームアップし、大音声を発しました。

「わたしぃ、50肩だからぁ、痛いー!!」

その真率な叫び声が、深夜の集落に響き渡りました。

なにも思い残すことはない、部屋にはロープを用意している、もう自分を誰も止められやしない、と潔い希死願望を猛烈にアピールしていた彼女が、肩の痛みを訴えたのです。

しかも、50肩だなんて十以上も歳をサバ読んでまで。

私は野次馬達のように失笑する気にはなりませんでした。

おそらく彼女は、長年その肩の痛みに耐えてきたのに違いありません。

かつて腰痛に苦しんだ私には、彼女の心の叫びが、いや、もとい、実際に声に出しての叫びがよく分かる気がしました。

世をはかなむに至るきっかけは、その肩痛だったかもしれません。

やはり、健康管理、自分の体をメンテしなければいけないなぁと、尊い教訓をいただいて帰署に着きました。

おそらく翌日は、酒の酔いもさめ、治療院で鍼などやってもらったのでしょうか。

その後、そこに救急車やパトカーが行くことはありませんでした。

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