よく聞く言葉に「幸せは気持ち次第」というものがあります。

確かにそうだと感じた経験は、多くの方にあるのではないかと思います。

しかし、この言葉を言われて傷つく人もたくさんいます。



心理学者アルバート・エリスが提唱した「ABC理論」として知られている論理療法は、今では自己啓発系のジャンルでマイナス思考からプラス思考に転じるためのノウハウとしてよく取り上げられています。

よく「コップに半分の水」の捉え方に例えられます。

コップに半分の水を見て、水の量は同じなのに、「半分しか残っていない」と悲観するのも、「まだ半分もあるじゃないか」と楽観するのも、単に思考・思い込みの違いである、という説です。

だから、悲観なんかしないで、思考を変えてポジティブに行こう、というわけです。

勿論、そのこと自体に異を唱えるわけではありません。

しかし、そんなふうに思考を変えられるのも、心のエネルギーの量がある一定以上残ってないと無理なのだと思います。



私には心の病気を経験した友人、知人がたくさんいます。彼らの心が苦しさで悲鳴を上げているときに、その類の言葉をかけられることが多かったようです。

「あなたよりもっと重い病気で苦しんでいる人がいるのよ」

「もっと不幸な人はたくさんいる。君はまだ幸せな方だよ」

言われた方は、信頼していた人さえ自分の苦しみを理解してくれない、と孤独感、閉塞感を強め、自己の無価値感が強まったと言っていました。

「かえってどん底に突き落とされた」とさえ感じた人もいました。

ある友人は、心理カウンセラーに相談したら同じようなことを言われ、相談前より苦しくなったと話してくれました。

彼にとっては、「そんな理屈は当時の自分でも分かっていた。分かっていたけどどうしようもないから苦しんでいたんだ」そう言っていました。



自分を俯瞰して見るにはエネルギーがいります。

心が弱ってエネルギーが欠乏している時に言われても、心は変われないのです。

周囲の人の協力や思いやりがあったり、休息を十分とって回復したときに、ようやく「幸せを自分の気持ち」で決められるようになるのではないでしょうか。 

自分自身がいくら上り調子な時でも、「コップに水が半分しかない」としか捉えられない心の存在を認めることが「思いやり」なのだと、私自身も忘れずにいたいと思います。

(日本海新聞「潮流」2015年9月9日掲載)

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