「あなたの話を聞いて、勇気を出して『ありがとう』を伝えました」

そんなメールや手紙をいただく機会があります。

学校関係では、講演の終わった後に生徒さんが書いた感想文を、後日送ってくださるところが少なくありません。

私の話したエピソードがきっかけで、何人もの生徒さんが実行に移してくれたことを、感想文を通して知ることになります。


 

「ありがとう」と言葉にするには勇気がいる場合があります。

照れくさくて、恥ずかしくて、その上、たったそれだけの言葉では伝えきれないほどの思いがあって、どうしていいのかわからなくなることもあります。

ようやく伝えた「ありがとう」は、相手以上に自分を幸せにしてくれます。

 
思い切って伝えられた達成感を感じ、何年も胸に秘めてきた思いをやっと言葉にできた自分をほめてやりたいと思ったり。

そのあとは・・・

そのあとには、「ありがとう」を伝えた先に、もっといろんな形の「ありがとう」を伝えることも大切です。

 

勇気を出してやっと「産んでくれてありがとう」と伝えた私の母は、その一年半後に亡くなりました。

入院中は、毎日、ときには日に2度、見舞いに行きました。

麻痺して四肢が動かなくなり、目も見えなくなっていた母の手足を、毎日毎日さすっていました。

何もしてやれないので、「ありがとう、ありがとう」と何度も言葉にしながら、たださすっていました。

 

母の足をさすりながら、こんなふうに母の手を握ったり、なでさすったりしたことは、おそらく小学生の時以来ではないか、と思いました。

元気なうちに肩もみをしたり、ハグもしてやれば、どんなにか喜んでくれただろうに、と思いました。

 

そんな簡単なことで、人は心から喜びを感じることができます。

特に、親は子どもにどんな小さなことでも、愛を感じられることをやってもらえば、天にも昇るような幸福を感じます。

世界一周旅行に連れて行ってあげられなくても

豪華な家を建ててあげられなくても

肩に腕をまわして笑いかけるだけでも、幸せをあげられます。
 

そんな単純なことがわかるまで、何十年もかかったんだなあと思いながら、ときどき呼吸の止まる母の耳もとに、「ありがとう」とささやき続けました。

「ありがとう」を伝えたらそれで終わりではなく、その先ももっともっと幸せになれることが待っていることも伝えていこうと思っています。