「中3になる息子が、いろいろ話しかけてはくるんですが、何をしょうもないことに悩んでるんだ、とどうしても思ってしまって相手にしないんです」

以前、ある中学校保護者会主催の講演会事前打ち合わせのときに、そんな発言がありました。

保護者会から依頼をいただいて人権や子育てテーマの講演会をやる機会は多いのですが、事前に役員さんと打ち合わせをするというのはめったにありません。

子育て講演会風景

冒頭の言葉は、役員さんが順番に思いを話される中で、一人のお父さんが話した言葉でした。

「いやいや、お父さん、あなたも中学生の頃には、鼻の頭にニキビができたくらいで、大いに気にしたり劣等感を感じたりしていた時期があったでしょ。

大人にとっては小さなことでも、当の本人にとっては大問題なんですよ」

そう言いたかったのですが、その場で話すより実際に講演を聞いてもらった方が話が早いだろうと、思いとどまりました。

その講演会は保護者の人数も比較的少なかったので、講演終了後に保護者と講師である私とが車座になって話し合うという、珍しいものでした。

司会役の役員さんが、
「さあ、どなたか今日の講演についての感想とか、気づいたことがあればお話ください」
と呼びかけるんですが、なかなか手が上がりません。

ようやく、打ち合わせで「息子がしょうもないことばかりに悩んでいる」と話したお父さんが、一番に手を上げました。

子育てするお父さん

「今日の講演を聞いていて、息子がまだ妻のお腹にいるとき、医師からは死産になるかもしれないと、告げられた頃のことを思い出しました。

次の検査では、産まれてもまともに育たないだろう、とまで言われました。
また翌月になると、たとえ産まれても重い障がいが残るだろうと宣告されました。

生まれるまでの数ヶ月、毎日毎日重たい気持ちで過ごしました。
毎日毎日、なんとか無事に産まれてくれと、祈りながら過ごしました。

それでも無事に産まれ、障害もなく、今まで大きな病気もすることなく成長してくれました。

あの日あんなに大喜びしたことを、自分は忘れて、悩みごとを口にする息子の相手をしてやっていませんでした。

今日の講演を聞きながら、当時のことを思い出すことができました。
本当にありがとうございました」

涙を拭いながら話す言葉に、保護者の皆さんも私も涙を拭いました。

子育てするお母さん

いつも一緒にいることで、大切な大切な存在なのに、ついつい面倒臭がって、じっくりと話を聞いてあげられないこともあります。
大切な存在だとは思っていても、愛情を表現しなくなりがちです。
大変だったことや喜びあったことを忘れないで、ときには思い出すことも大切ですね。

子どもはいつかは大人になっていきます。
大人になった頃にはなおさら、子育ての思い出は宝物になります。

いっぱいいっぱい悪戦苦闘して、せいいっぱい向き合って、宝物をたくさんつくりましょう。