今振り返ると、この講演会は、私の人権講演活動にとって大きな転機でした。
2014年9月13日、鳥取市のさざんか会館で開催された「平成26年度鳥取市人権教育協議会社会教育部会全体研修会」で、講師を務めました。
演題は、「命の重さと輝き」です。
参加されたのは、鳥取市内の企業、宗教団体、公民館、市役所、学校などで人権を担当されている皆さん。幅広い年代の200人を超える方々を前に、1時間半お話ししました。
この講演会をきっかけに、私は鳥取県内のさまざまな地域や団体から、人権講演会のご依頼をいただくようになりました。
その後、講演の機会は県外へも広がり、今では全国各地でお話しさせていただいています。
私にとって、救急現場で教えられた命の尊さを、人権という視点から伝えていく原点となった大切な講演会です。
「講演の内容を詳しく教えてください」
この講演会が生まれるきっかけとなった、一人の方との出会いがありました。
以前、鳥取県庁の人権担当部局を訪ねたときのことです。
その方が、初めて私の講演内容に耳を傾けてくださいました。
「講演の内容を詳しく教えてください」
その言葉を聞き、私は、消防・救急現場で命と向き合う中で感じてきたことをお話ししました。
幼い子どもを救急搬送したときのこと。
「命は大切」という言葉が、ありきたりな言葉ではなく、自分の胸の中へ深く入ってきた経験。
生きていることを当たり前だと思っていた私が、救急現場で命の尊さを思い知らされたこと。
その出会いから数カ月後に実現したのが、この人権講演会でした。
一人の方が足を止め、私の話を聞いてくださったことから、すべてが始まりました。
人権担当者200人以上を前にした講演
会場には、企業、宗教団体、公民館、市役所、学校など、さまざまな立場で人権に関わっている方々が集まってくださいました。
年齢も職業も異なる200人以上の皆さんを前に、「命の重さと輝き」という演題でお話ししました。
人権には、さまざまな課題があります。
その一つひとつを考えるうえで、私が原点としているのは、消防・救急現場で出会った命です。
生まれた土地や国、肌の色、障がいの有無などによって、命の重さが変わることはありません。
そのことを、救急現場で実際に目にした光景や、私自身が感じたことを通してお伝えしました。
重い話の前に、方言ギャグソング
救急現場の話は、どうしても重くなります。
だからこそ、最初から最後まで緊張が続かないように、県内の講演でよく歌っていた方言ギャグソングを、話の間に挟みました。
命について真剣に考える時間と、少し肩の力を抜いてもらう時間。
その両方を大切にしながら、講演を進めました。
救急現場で目にした「生きようとする力」
消防士時代、私は数多くの救急・救助現場へ出動しました。
悲惨な事故現場で、命を失う人を目の当たりにしながら活動していると、心臓をギュッとわしづかみにされたような胸苦しさを覚えることがありました。
大けがをして意識を失っていても、人の体は、あえぎながら必死に呼吸を続けようとします。
その姿を前にすると、人間が持つ**「生きようとする力」**に、ただただ圧倒されました。
応急処置をしながら、救急隊員だった私は、祈るような気持ちで搬送していました。
「助かってくれ」
「呼吸を続けてくれ」
「生き続けてくれ」
その瞬間、私たちの前にいるのは、ただ一人の大切な命です。
命の前に、差別が入り込む余地はない
必死に生きようとする命を前にしたとき、生まれた土地や国、肌の色の違い、障がいの有無などによって、その命を分けて考えることはできません。
命が生きようとする姿の前に、差別的な意識が入り込む余地はないのだと思いました。
むしろ、人の命の尊さに、理屈を超えた強さで打たれるような思いがします。
人権という言葉は、ときに難しく感じられるかもしれません。
けれど、自分の命も、目の前にいる人の命も、同じように大切なものであること。
そこから、人を思いやることや、違いを認めることが始まるのではないでしょうか。
心ない言葉が、弱った心をさらに追い詰める
消防士時代には、心が疲れ、自ら命を絶とうとした方を何人も搬送しました。
心が弱っているところへ、さらに心ない言葉をかけられ、自分を傷つける行為に至った例もありました。
言葉は、目には見えません。
それでも、人の心を支えることもあれば、深く傷つけることもあります。
特に心が弱っているとき、何気なく向けられた一言が、その人をさらに追い詰めてしまうことがあります。
SNSなど、相手の顔が見えにくい場所でも、言葉の向こうには一人の人間がいます。
人に対する思いやりや、自分と相手の命の重さに気づくこと。
この講演が、それをあらためて考えていただくきっかけになればと思いながら、お話ししました。
「温かい気持ちになった」という感想
重い救急現場の体験をお話ししたあと、皆さんがどのような気持ちで帰られたのか。
後日送られてくるアンケートを読むとき、私は毎回、少し覚悟を決めます。
この講演会では、次のような感想をいただきました。
「重たいはずのエピソードを聞いたのに、講演の最後にはとても温かい気持ちになっていました」
「涙を流し、優しい気持ちになれました」
その言葉を読み、私は安堵のため息をつきました。
命の重さを伝えることが、恐ろしさだけを残すのではなく、目の前の人や自分自身を大切にする気持ちにつながった。
そのことが、私には何よりありがたく感じられました。
講演をするたびに、私自身も新たな気づきをいただきます。
この日も、もっとたくさんの人に聞いていただけるように、これからも精進していきたいと思いました。
講演会の開催概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研修会名 | 平成26年度鳥取市人権教育協議会社会教育部会全体研修会 |
| 日時 | 2014年9月13日 |
| 演題 | 命の重さと輝き |
| 場所 | 鳥取県鳥取市・さざんか会館 |
| 主催 | 鳥取市人権教育協議会社会教育部会 |
人権講演会について
人権講演会では、消防・救急現場での体験とオリジナルソングを通して、命の大切さ、思いやり、言葉で心を伝えることについてお話ししています。
講演内容については、人権講演会のご案内をご覧ください。
開催についてのご相談は、お問い合わせページから承っています。
この講演から鳥取県内へ、そして全国へ
この講演会をきっかけに、参加された人権担当者の方々から、少しずつ講演のお話をいただくようになりました。
一つの講演が次のご縁につながり、そのご縁が、また新しい場所へとつながっていきました。
やがて、鳥取県内すべての市町村で、人権講演会をさせていただくことができました。
さらに、活動は県外へも広がり、今では全国各地で講演の機会をいただいています。
あの日、私の話に耳を傾け、
「講演の内容を詳しく教えてください」
と言ってくださった方がいなければ、この講演会は生まれていなかったかもしれません。
そして、会場で話を聞いてくださった皆さん、その後の講演へつないでくださった皆さんとの出会いがなければ、今の活動もありませんでした。
消防・救急現場で教えられた命の重さを、一人でも多くの方へ伝えたい。
そう思って始めた講演が、人から人へ、鳥取県内から県外へ、そして全国へとつながっていきました。
その原点となったこの講演会と、支えてくださったすべての皆さんに、あらためて心から感謝しています。

