【自殺予防講演】「自分が元気でないと、人を元気にできませんね」医師の言葉

能美市の自殺予防講演会で話す石川達之

「今日のお話を聞いて、連日診察に追われ、自分でも気づかないうちに大きな疲労をため込んでいたことに気づきました」

講演を終えたあと、控室まで来られた医師の方が、そう話してくださいました。

そして、こう続けられました。

「自分が元気じゃないと、人を元気にすることができませんよね」

患者さんの体や心を支えている医師が、自分自身の疲れには気づいていなかった。

その言葉が、強く心に残りました。

目次

市民の皆さんに向けた自殺予防講演会

2018年3月21日の春分の日、石川県能美市で開催された自殺防止対策強化月間講演会に、講師として呼んでいただきました。

演題は、「救急現場で学んだいのちの重さ~心を支える言葉の力~」です。

この講演会は、市民の皆さんを対象にしたものでした。

能美市が自殺予防に力を入れ、一般市民を中心に、医療関係者にも参加を呼びかけていたと伺いました。

会場では、一般市民の方が多くを占めていました。当初は80人ほどの参加を見込んでいたそうですが、当日は120人を超える方が参加されました。

ホテルまで迎えに来てくださった市の福祉課の方から、会場へ向かう車の中で、メンタル不調の方との関わりや、自殺予防、グリーフケアへの取り組みについてお聞きしました。

お仕事のほんの一部を伺っただけでも、その大変さが伝わってきました。

救急現場で学んだ命の重さと言葉の力

講演では、私が消防士として経験した救急現場での出来事や、命の重さ、周囲の人にかける言葉についてお話ししました。

数十年前の出来事であっても、現場の状況を言葉にしていると、当時の光景が蘇り、今でも少し息苦しくなることがあります。

それでも、伝えたいと思うのです。

心ない言葉によって、心を深く傷つけられる人がいます。

一方で、誰かの何気ないひと言に支えられ、もう少し生きてみようと思えることもあります。

講演では、次のようにお伝えしました。

そんな大きな力を持つ言葉を使うなら、相手を傷つけたり、苦しめたりするためではなく、相手が笑顔になり、幸せを感じられるように使ってほしい。
そして、自分自身も幸せになるために使ってほしい。

自己紹介では、満席の会場に笑いが起こり、和やかな雰囲気になりました。

救急現場の話になると、ハンカチで顔を覆ったり、メガネを外して涙を拭いたりする方の姿がありました。

質疑応答でも何人もの方が手を挙げてくださり、皆さんが真剣に受け止めてくださったことが伝わってきました。

自分の疲れに気づきにくいのは、支える人だけではない

講演後に話しかけてくださった医師の言葉は、とても印象に残りました。

しかし、自分の疲れに気づかないまま頑張り続けるのは、医療関係者や支援職に限ったことではありません。

仕事が忙しい人。

家事や子育てに追われている人。

家族のことを心配しながら毎日を過ごしている人。

地域や職場で責任を抱えている人。

特別なことをしているつもりがなくても、日々の小さな無理が重なり、いつの間にか心や体が疲れていることがあります。

それでも私たちは、周囲の人から、

「疲れているんじゃない?」

と聞かれると、

「いや、大丈夫、大丈夫」

と答えてしまいます。

相手を安心させるためだけでなく、自分自身にも「まだ大丈夫だ」と言い聞かせていることがあります。

人を支える立場の人は、自分を後回しにしやすい

自殺予防講演会で参加者の質問に答える石川達之

誰にでも気づきにくいストレスがありますが、介護や看護、福祉など、人を支える立場にある方は、さらに自分を後回しにしやすいのではないでしょうか。

家族の療養や介護を担っている方も同じです。

相手の体調には注意を払い、食事や睡眠を心配する。

けれども、自分が眠れているか、きちんと食べられているかについては、考える余裕がなくなることがあります。

「今は、自分のことを言っている場合ではない」

「自分がしっかりしなければ」

そう思いながら、疲れや苦しさを後回しにしてしまうのです。

講演後に話しかけてくださった医師も、毎日多くの患者さんと向き合いながら、自分自身に大きな疲労がたまっていることには気づいていませんでした。

「自分が元気じゃないと、人を元気にすることができませんよね」

この言葉は、医療や介護に携わる方だけに向けられたものではないと思います。

誰かのために頑張っている人。

家族のことを優先している人。

毎日の仕事や生活を何とか続けている人。

私たち一人一人が、自分の心と体にも目を向ける必要があることを教えてくれた言葉でした。

「大丈夫」が自分に言い聞かせる言葉になる

疲れている状態が長く続くと、それが「いつもの自分」になってしまいます。

眠りが浅くなった。

食欲が変わった。

以前よりイライラするようになった。

人と話すことさえ面倒になってきた。

一つ一つは、小さな変化に見えるかもしれません。

それでも、以前の自分と比べて変化が続いているなら、一度立ち止まる必要があると思います。

厚生労働省も、何かに向かって頑張っているときほど、自分のストレス状態に気づかないまま頑張り続けてしまうことがあると伝えています。

誰かから「疲れているんじゃない?」と言われたとき、すぐに「大丈夫」と返す前に、一度だけ立ち止まってみる。

最近、眠れているだろうか。

食事は取れているだろうか。

以前は楽しめていたことを、今も楽しめているだろうか。

人を支えることや、毎日の役割を果たすことに追われ、自分の心と体を置き去りにしていないだろうか。

そんなふうに自分へ尋ねることで、初めて気づくことがあるかもしれません。

言葉は、自分を支えてもらうためにも使える

講演では、相手を傷つけるためではなく、支えるために言葉を使ってほしいとお話ししました。

けれども、言葉は誰かを支えるためだけにあるのではありません。

自分自身の苦しさを認め、助けを求めるためにも使うことができます。

「少し疲れているかもしれない」

「今は、ちょっとつらい」

「少しだけ話を聞いてほしい」

その短いひと言が、自分を支えてもらうための入口になることがあります。

休むことは、仕事や役割を投げ出すことではありません。

人に話を聞いてもらうことも、弱さではありません。

すぐに問題が解決しなくても、誰かに話すことで、自分がどれほど無理をしていたのかに気づくことがあります。

人を支える人にも、支えてもらう時間が必要です。

そして、人を支える仕事をしているかどうかにかかわらず、誰にでも誰かの力を借りる時間が必要なのだと思います。

「大丈夫」と言う前に、自分の心を確かめる

講演の翌日、参加された方からメールが届きました。

もっと多くの方にこの感激を広げたいのですが、町内会のような単位でも講演をお願いすることはできますか?

もちろん、町内会などの地域の集まりでも伺います。

自殺予防や心の健康という言葉を聞くと、何か特別な悩みを抱えた人だけに関係する話のように感じるかもしれません。

しかし、自分の疲れに気づかないまま頑張り続けることは、誰にでも起こり得ます。

誰かに「大丈夫?」と声をかけること。

「実は少し疲れている」と言葉にすること。

どちらも、心を守るための大切な一歩です。

「大丈夫」と答える前に、自分の心と体へ、

「本当に大丈夫だろうか」

と尋ねてみる。

その小さな立ち止まりが、自分を守ることにつながるのではないでしょうか。

冬に戻ったような寒い日でしたが、能美市の皆さんと心の温かくなる時間を共有できました。

講演に足を運んでくださった皆さん、講演会を準備してくださった皆さん、本当にありがとうございました。

つらさを一人で抱えている方へ

眠れない、食べられない、気持ちが落ち込むなどの不調が続いている場合は、一人で抱え込まず、身近な人や医療機関、公的な相談窓口へ相談してください。

厚生労働省の「まもろうよ こころ」では、電話やSNSなど、相談方法に応じた窓口を探すことができます。

厚生労働省「まもろうよ こころ」相談窓口

自分を傷つけたいほどつらいときも、「大丈夫」と自分に言い聞かせて一人で耐えず、今の気持ちを誰かに伝えてください。

市民向け・自殺予防・心の健康講演をお考えの方へ

自治体や町内会、地域団体などの市民向け講演会をはじめ、医療・福祉関係者、介護に携わる方を対象とした自殺予防・心の健康講演を行っています。

消防・救急現場での体験をもとに、命の重さや言葉の力、自分では気づきにくい心の疲れについて、オリジナルソングの弾き語りを交えながらお伝えします。

この日お話しした救急現場のエピソードは、こちらの記事で紹介しています。

「生きていてよかった」と泣いた夫婦|命の講演会で話すこと

自殺予防講演については、講演内容のご案内をご覧ください。

講演のご相談は、お問い合わせページからお願いいたします。

講演会概要

項目内容
講演会名能美市自殺防止対策講演会
日時2018年3月21日(水)
演題救急現場で学んだいのちの重さ
~心を支える言葉の力~
会場石川県能美市・辰口福祉会館交流ホール
能美市での自殺予防講演会のチラシ
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