2024年9月29日、愛媛県鬼北町の地域自殺対策強化事業による自殺予防講演会で、お話ししました。
演題は「救急現場から学んだ命の重さ~心を支える人のつながり~」です。
32年間の消防生活で経験した救急現場、妻の心の病気と向き合うなかで気づいたこと、そして歌を通して、苦しんでいる人のそばにいる私たちに何ができるのかをお伝えしました。

自殺の背景には、健康、家庭、仕事、経済的な問題など、さまざまな苦しみが複雑に重なっているといわれます。数字だけでは見えない、一人ひとりの人生があります。
だからこそ、この日の講演では統計の説明に多くの時間を使うのではなく、救急現場や家族との経験をもとに、命の重さと人とのつながりについてお話ししました。
| 項 目 | 内 容 |
|---|---|
| 講演会 | 愛媛県鬼北町自殺予防講演会 |
| 日 時 | 2024年9月29日(日) |
| 演 題 | 救急現場から学んだ命の重さ~心を支える人のつながり~ |
| 場 所 | 愛媛県北宇和郡鬼北町大字近永 近永公民館 |
| 主 催 | 鬼北町役場 地域自殺対策強化事業 |
愛媛県鬼北町で開かれた自殺予防講演会

講演依頼のメールを見たとき、最初に目に留まったのが「鬼北町」という町名でした。調べてみると、日本で唯一「鬼」の文字が入る自治体だそうです。
町に入ると、道の駅「広見森の三角ぼうし」で大きな赤鬼に出会いました。鳥取県伯耆町にも巨大な鬼がいるため、初めて訪れた町なのに、どこか親しみを感じました。

鳥取から鬼北町までは約400キロ。初めての四国での講演に、いつもとはまた違う新鮮な気持ちで会場へ向かいました。
救えなかった命から教えられたこと

消防士だった頃、自損行為の現場で活動したことは一度や二度ではありませんでした。
すでに手遅れだった現場では、言葉にできない重苦しさが残りました。救えなかったことへの無力感なのか、自責の念なのか、亡くなった方の人生の重さに圧倒されたのか。簡単には言い表せない感情です。
そうした現場に立つたびに、胸に浮かんだことがあります。
大切な人を大切に思っているなら、その気持ちは言葉にして伝えなければならない。
心の中で思っているだけでは、相手に届かないことがあります。そのことを救急現場で何度も教えられました。
妻の心の病気と、かけられなかった言葉

救急現場では命について考えていた私も、いざ家族のことになると、思うように言葉をかけられませんでした。
妻がうつ病になり、何年も苦しむ姿を見てきました。それでも、どうすればいいのかわからず、途方に暮れる日々を過ごしました。
大切に思う気持ちはあったのに、伝えたつもりになっていただけで、言葉が足りなかったのです。
今回の講演では、「家族の病気で学んだこと」として、当時の私がもっと伝えるべきだった言葉についてお話ししました。

- 苦しさを受け止める言葉――「苦しかったね」「つらかったね」
- ひとりではないと伝える言葉――「ずっとそばにいるよ」「いつも味方だよ」
- 大切な存在だと伝える言葉――「あなたが大切なんだ」
正しいことを言おうとするよりも、まず相手の苦しさを否定せずに聴くことが必要だった。私は妻との経験を通して、そう感じています。
もちろん、身近な人の言葉だけですべてを解決できるわけではありません。その人にしかわからない苦しみがあり、家族や友人だけで抱え込んではいけない場合もあります。
厚生労働省は、悩んでいる人への関わりとして「気づく」「声をかける」「話を聴く」「必要な支援につなげる」「見守る」ことを示しています。
そばにいる人ができることと、専門家や相談機関に託すこと。その両方が大切です。
救急現場の実体験と歌で伝えたこと

講演では、心中を図った中高年夫婦を救急搬送したときのこともお話ししました。
救急病院へ向かう救急車の中で夫が意識を取り戻し、二人が抱き合って喜んだ光景は、今も忘れられません。
救えなかった命と、救うことができた命。その両方に向き合ってきたからこそ、何でもない一日を過ごせること、大切な人と言葉を交わせることの尊さを伝えたいと思っています。
この夫婦のエピソードは、別の記事で詳しく綴っています。
重いテーマではありますが、講演では話だけを続けるのではなく、歌も交えながら、参加された方が自分や身近な人のこととして考えられる時間をつくりました。
講演後に聞かせていただいた声
講演が終わると、介護士、社会福祉関係者、元消防士など、多くの方が話しかけてくださいました。
「面白かった」という感想のほか、講演で聞いたことを今後の仕事に生かしたいという思いも聞かせていただきました。
「妹が鳥取に嫁いでいます」「鳥取砂丘に行ったことがあります」と、鳥取の話をしてくださる方もありました。講演が終わったあと、参加者の皆さんと言葉を交わせることは、私にとって大切な時間です。
控室に戻ると、色紙が何枚か置かれていて、サインを求められました。久しぶりに書いたサインに言葉を添えたのですが、その文字のあまりの下手さに、我ながら呆れました。

講演内容をさらに充実させるのと一緒に、字も練習しなければ。そう思いながら、初めての四国での講演を終えました。
自治体・福祉関係団体の自殺予防講演会へ
自殺予防という重いテーマだからこそ、知識を一方的に説明するだけではなく、救急現場での実体験と歌を通して、「自分の身近な人に何ができるだろう」と考えていただける講演を心がけています。
自治体の地域自殺対策事業、社会福祉協議会、民生委員・児童委員の研修、福祉関係団体など、参加される方に合わせて講演内容を構成します。
もし今、先の見えない不安や生きづらさを抱えている方は、ひとりで抱え込まず、相談できる場所につながってください。厚生労働省の「まもろうよ こころ」では、電話やSNSなどの相談窓口が案内されています。

