夢がかなわなかったとしても、その人の価値が失われるわけではありません。
2018年9月、鳥取県倉吉市の倉吉愛児園で、保護者会主催の講演をさせていただきました。
子どもには、夢を持って生きてほしい。
自分の好きなことを見つけ、それに向かって努力してほしい。
そう願うことは、とてもすてきなことです。
しかし、この日の講演で私が保護者の皆さんにお伝えしたかったのは、夢をかなえる方法ではありませんでした。
夢をかなえたときも、かなわなかったときも、自分を大切な存在だと思える心を、幼い頃から育んでほしい。
その土台になるのが、親から伝える、
「あなたは、そのままで大切な子だよ」
という思いではないか。
そんな話を、歌を交えてお届けしました。
「夢を持とう」という言葉が苦しくなるとき

夢に向かって努力することには、大きな意味があります。
やりたいことが見つかれば、毎日に張り合いが生まれます。うまくいかないことがあっても、目標に向かって進む時間は、その人を成長させてくれます。
けれど、どれほど努力しても、かなわない夢もあります。
毎日苦しい思いをしながら努力しても、自分より簡単に高い結果を出す人がいる。そんな現実を前に、心が折れてしまうこともあります。
それでも周囲から、
「簡単に夢をあきらめるな」
「あきらめなければ、夢は必ずかなう」
と言われることがあります。
もちろん、あきらめずに努力を続け、夢をかなえた人もいるでしょう。
その体験は、多くの人に勇気を与えてくれます。
しかし、その陰には、同じように努力しても夢がかなわず、挫折を味わった人もいます。
簡単にあきらめたわけではありません。
自分にできることを精いっぱい続けた結果、それでも届かなかったのです。
そんな人にまで「あきらめたから、かなわなかった」と言ってしまうのは、あまりにも苦しいことではないでしょうか。
夢をかなえたかどうかで、人の価値は決まらない
夢に向かって努力した時間には、意味があります。
夢がかなわなかったとしても、その努力まで消えてしまうわけではありません。
また、初めから大きな夢を描かなかった人の生き方にも、同じように大切な意味があります。
夢を持っている人が偉くて、夢を持っていない人は劣っているということではありません。
夢をかなえた人に価値があり、かなえられなかった人には価値がないということでもありません。
夢の成否と、その人自身の価値は別のものです。
夢がかなわなかったとき、すぐに次の夢を見つけられるとは限りません。
立ち止まることもあります。
しばらく何もしたくなくなることもあります。
休んだあとで別の道を選ぶこともあれば、これまでとは違う小さな楽しみを見つけることもあります。
そんなとき、
「夢をかなえられなかった自分には、価値がない」
と思わずにいられる心が、その人を少しずつ支えてくれるのではないでしょうか。
子どもに伝えたい「あなたはそのままで大切」

自分のことを大切な存在だと思える心は、自己肯定感や自尊感情とも呼ばれます。
それは、「自分は何でもできる」と思い込むことではありません。
失敗する自分。
うまくできない自分。
誰かに負けて、悔しくて仕方がない自分。
そんな自分も含めて、「それでも、自分は生きていてよい大切な存在だ」と思えることです。
幼い頃から、自分の存在を受け止めてもらった経験は、その心を育てる土台の一つになると思います。
子どもが何かを上手にできたときに褒めることは大切です。
努力した過程を認めることも大切です。
しかし、できたときだけ愛情を示していると、子どもは、
「うまくできなければ、自分には価値がないのではないか」
と感じることがあるかもしれません。
だからこそ、結果とは関係なく、
「あなたがいてくれることがうれしい」
「あなたは、そのままで大切な子だよ」
という思いを伝えてほしいのです。
親も、いつも優しくできるわけではない
子育てに迷ったとき、私が大切にしたいと思うのは、できたことや成績だけで子どもの価値を決めないことです。
ただ、親も一人の人間です。
忙しくて余裕がない日もあります。
つい強い言い方をして、あとで後悔することもあります。
いつでも笑顔で、無条件の愛情を完璧に伝えられる親など、なかなかいないのではないでしょうか。
私も二人の息子を育てながら、迷ったり、心配したり、言いすぎてしまったりしました。
大切なのは、一度も間違えないことではありません。
うまく伝えられなかったと思ったときに、もう一度伝え直すことはできます。
「さっきは言いすぎた。ごめんな」
「あなたのことが嫌いだから怒ったわけではないよ」
そんな言葉でも、親の思いは少しずつ子どもに届いていくのではないでしょうか。
愛情は、その子に届く方法で伝える

親は子どものことを、心の中で大切に思っています。
けれど、毎日の忙しさや照れくささから、その思いを言葉や態度にできないこともあります。
愛情は、日々のさまざまな関わりを通して伝えることができます。
名前を呼ぶ。
子どもの話に耳を傾ける。
「おかえり」と迎える。
一緒に食事をする。
結果だけでなく、取り組んだ過程を認める。
そして、ときには、
「生まれてきてくれて、ありがとう」
と、言葉にして伝える。
子どもが嫌がらなければ、抱きしめることも一つの方法です。
大切なのは、決まった形に当てはめることではありません。
その子の年齢や性格に合わせて、子どもが「自分は大切にされている」と感じられる方法で、愛情を伝えていくことだと思います。
歌を交えて伝えたかったこと
倉吉愛児園での講演では、言葉だけでなく、歌も交えながらお話ししました。
夢に向かって進む力も、失敗したあとにもう一度立ち上がる力も、根っこにあるのは、
「自分は大切な存在だ」
と思える心ではないでしょうか。
その心があれば、夢がかなわなかったときにも、自分をすべて否定せずに済むかもしれません。
すぐに前を向けなくてもいい。
新しい夢が見つからなくてもいい。
立ち止まっている自分にも価値がある。
そんな思いを、保護者の皆さんへお伝えしました。
夢より先に伝えておきたいこと
子どもに夢を持ってほしいと願うことは、すてきなことです。
けれど、その前に伝えておきたいことがあります。
夢をかなえたあなたも大切。
夢がかなわなかったあなたも大切。
まだ夢が見つからないあなたも大切。
何かができるから大切なのではありません。
誰かに勝ったから、価値が生まれるのでもありません。
あなたは、あなたとして生まれ、ここにいてくれる。それだけで大切な存在なのだ。
その思いを、子どもが幼いうちから、言葉や態度で少しずつ伝えていけたらと思います。
無条件の愛情については、こちらの記事にも書いています。
子育てに疲れ、自分を責めそうになったときには、こちらの記事もお読みください。
子どもを認めること、親自身の心を守ること、家庭での言葉の伝え方について、子育て講演会でもお話ししています。

