「このまま今の仕事を続けていていいのだろうか」
「毎日それなりに暮らしているけれど、何となく満たされない」
「これからの人生で、何か新しいことをやってみたい。でも、何をしたいのかわからない」
年齢を重ねるにつれて、そんな思いが浮かんでくることがあります。
大きな不満があるわけではない。今すぐ仕事を辞めたいわけでもない。それでも、ときどき、
「このままで人生が過ぎていっていいのだろうか」
と、未来が不安に感じられる瞬間があります。
私自身も、50歳を前に「このままでいいのか」と考え、夜中に何度も目が覚める時期がありました。
その頃のことは、40代・50代で「このままでいいのか」と悩むのは弱さじゃないに詳しく書いています。
そんなとき、
「自分の強みを見つけよう」
「やりたいことを探そう」
と考える人も多いと思います。
自分の強みや得意なことを知ることは、大切な入り口です。
私自身も「AIで見つける『強みの棚卸し』セミナー」の講師を務めました。
AIを利用し、自分一人で棚卸しするのとは違う視点から「強み」を見つけようという内容でした。
ただ、強みらしきものが見つかっても、次の一歩につなげられないことがあります。
「本当にこれが自分の強みなのだろうか」と確信を持てず、別の方法でまた探し始める。
その理由の一つは、見つけた強みを一つの点として見ているからかもしれません。
見つけた「強み」を、これまでの経験とつないでみる
たとえば、
「文章を書くのが好き」
「人の相談に乗ることが多い」
「人前で話すのが得意」
「本を読むのが好き」
「コツコツ続けることができる」
こうしたものは、どれも大切な手がかりです。
でも、その一つだけを見ても、「では、これから何をするのか」という答えまでは、なかなか出てきません。
「文章を書くのが好き」なら、何について書くのか。どんな経験や知識があるのか。誰に何を伝えたいのか。これからも書き続けたいのか。
そこまで考えて初めて、「文章を書く」という強みが、これからの生き方や仕事とつながってきます。
大切なのは、強みを一つ見つけるだけではなく、これまでの経験や知識、興味、価値観とつないでみることだと思います。
強み探しを繰り返す前に、人生を振り返る

「もっと自分に合った強みがあるのではないか」
「本当の自分は、まだ別にあるのではないか」
そう考えて、診断を受けたり、本を読んだり、別の方法を試したりすることもあります。もちろん、それが悪いわけではありません。
ただ、強みを探すこと自体が目的になると、いつまでも「答え探し」が続いてしまいます。
特に40代、50代、それ以降になれば、すでに多くの経験を積んでいます。
仕事で経験したこと。
趣味で続けてきたこと。
人から頼まれてきたこと。
失敗したこと。
夢中になったこと。
長年学んできたこと。
家族との経験や人との出会い。
そうしたものを書き出してみる。これこそ「人生経験の棚卸し」ではないかと思います。
新しいことを学び始めるのも、次の人生への橋渡しになります。それも、まったく新しい自分になるということではありません。
ゼロから新しい自分をつくるのではなく、すでに持っているものに、新しいものを足していく。
そこから始めてもいいのではないでしょうか。
バラバラだった経験が、少しずつ線になった

私自身、若いころから小説を読むのが好きでした。自分でも小説を書き、何度か文芸誌に投稿したことがあります。
消防の仕事では、文章力を評価してくれた上司から、火災発生報告書や行事の企画書などの作成を頼まれることがよくありました。その後、新聞のコラムやタウン誌に文章を書く経験もしました。
一つひとつを見れば、「本を読む」「小説を書く」「仕事の文書を書く」「新聞に文章を書く」という別々の経験です。
でも、並べてみると共通するものがあります。
読むこと。
経験や情報を整理すること。
それを言葉にすること。
人に伝わる形に組み立てること。
それらがつながり、今では講演で自分の体験を一つの物語として伝えることにも役立っています。
体験を文章にしてブログで発信することが、講演依頼にもつながりました。
もし「自分の強みは何か」と考えて、「文章を書くことです」とだけ答えていたら、ここまでは見えてこなかったかもしれません。
私は32年間、消防の仕事をしていました。火災、救急、救助など、さまざまな現場で感じたことや命について考えたことが、その後の講演の土台になっています。
とはいえ、現場活動をしていた頃は、全国に大勢いる消防士の一人でしかなく、大きな災害現場で救助作業を経験したわけでもない自分が、消防現場のことを人前で話そうとは考えもしませんでした。
一方で、消防とは別に、文章を書き、歌を作り、ギターを弾いてきました。
ライブ仲間には歌のうまい人がたくさんいたので、「歌が特別うまいから、それを仕事にしよう」と思ったことは一度もありません。
消防現場で感じた無力感や、なかなか脳裏から消えない悲しい光景で傷ついた心が、救いを求めるように、浮かんだ言葉を紙片につづり、メロディーに乗せる。その作業を飽きることなく続けました。
自分自身をカウンセリングするように始めたオリジナルソングづくりです。作曲理論も知らず、すべて我流でした。
文章についても、学生時代にラブレターの代筆を頼まれたり、企画書や議案書の作成を頼まれたりしましたが、「人より抜きん出ているから仕事にしよう」とは考えませんでした。
一時期、小説家を目指して文芸誌に投稿していたことはありましたが。
ライブでのしゃべりがウケ、語りのおもしろい人というキャラクターが定着しても、話すことを職業にしようとは思いませんでした。
それぞれが一つの点のままだったら、今日まで続いていなかったかもしれません。でも、それらが少しずつつながっていきました。
今では、
消防・救急現場で経験したことを、話だけでなく、自分で作った歌も交えて伝える
という講演スタイルが、私の仕事になっています。
あとから振り返ると、バラバラだった点が少しずつ線になっていった、という感覚があります。
「得意か」より、「これからも大切にしたいか」
人から「それがあなたの強みだ」と言われることがあります。
自分でも、たしかに人より苦労せずできる。それでも、一度問いかけてみる必要があります。
「私は、本当にこれをやりたいのだろうか」
得意でも、やりたくないことはあります。反対に、飛び抜けて得意ではなくても、心が穏やかになったり、時間を忘れるほど夢中になったりすることがあります。
だから、人生経験を振り返るときは、「何ができるか」だけでなく、こんな問いも重ねてみるとよいと思います。
「人からよく頼まれてきたか」
「長く続けてきたか」
「やっているときに自分らしいと感じるか」
「人の役に立っている実感があるか」
「これからも関わっていきたいか」
すると、単なる「得意なこと一覧」ではなく、これからの人生に残していきたいものが少しずつ見えてきます。
私の場合は、消防士として欠点だと思っていた「傷つきやすさ」も、人生を振り返ることで別の見え方をするようになりました。その気づきは、自分の弱さが強みだった|50代で気づいた欠点を宝に変える方法に書いています。
次に試すことを、小さく絞ってみる

どれだけ考えても、最後はやってみなければわからないことがあります。
向いていると思って始めても合わないことがある。
反対に、「自分には無理だろう」と思っていたことが、意外に合っていることもあります。
だから、考えるだけで答えを出そうとしなくてもいいと思います。
ただ、手当たり次第に試すのではなく、自分の経験を整理してから試すものを選ぶことはできます。
たとえば、
「文章を書くのが好き」
「長年、本を読んできた」
「人から相談を受けることが多い」
「相手の話を整理して返すのが得意」
という経験がつながったなら、いきなり会社を辞めなくても、ブログを書いてみる、誰かの文章づくりを手伝ってみる、相談を受ける活動を小さく始めてみる、という試し方ができます。
人生経験の棚卸しは、その場で人生の正解を出すためではありません。次に何を試すかを絞るためにも役立つのです。
これまでの人生に、次の一歩の材料がある
「このままでいいのか」と思うと、何か新しいことを始めなければ、早くやりたいことを見つけなければ、と焦ることがあります。
でも、すぐに答えを出さなくてもいいのだと思います。
まずは、自分が歩いてきた時間を振り返り、「こんなことはたいしたことではない」と決めつけずに並べてみる。
その中に、つながっている経験がないかを見てみる。
点では何でもないように見えた経験も、いくつかつながると、その人にしかない組み合わせになることがあります。
強みは、大切な入り口です。そこで終わらず、
「この強みは、どんな経験とつながっているのだろう」
「自分は、何を大切にしてきたのだろう」
「これからも残していきたいものは何だろう」
と考えてみる。
そうすると、「自分の強みは何か」という問いが、「これから自分は、何をしてみたいのか」という問いに少しずつ変わっていきます。
「このままでいいのか」と感じたときこそ、新しい答えを外に探しに行く前に、一度これまでの人生を振り返ってみる。
そこに、次の一歩につながるヒントが眠っているかもしれません。





