「つらい」
「もう頑張れない」
「本当は自信がない」
そんな弱音を口にしたあとで、
「こんなことを言ってはいけなかった」
「もっと前向きにならなくては」
と、自分を責めたことはありませんか。
私たちは、日頃から「いつも笑顔でいよう」「プラス思考が大切だ」と言われます。
もちろん、前向きに考えることは大切です。
けれども、人の心は、いつも明るく元気でいられるほど単純ではありません。
疲れる日もあります。腹が立つ日も、不安になる日も、何もかも投げ出したくなる日もあります。
そんなときまで無理に笑顔をつくり、自分の本当の気持ちを押し込めなくてもよいのではないでしょうか。
心が疲れたときには、弱音を吐いたり、グチをこぼしたりしてもいい。
私はそう思っています。
弱音とは、自分の本当の気持ちを表す言葉

弱音とは、
「つらい」
「苦しい」
「自信がない」
「これ以上は頑張れない」
といった、自分の不安や苦しさを表す言葉です。
弱音を吐くことは、弱い人間になることではありません。
自分の心が疲れていることに気づき、それを誰かに伝えるためのサインでもあります。
グチは、不満や腹立たしさを言葉にすることです。弱音とは少し違いますが、どちらも心の中にたまっているものを外へ出す言葉です。
口にしたからといって、抱えている問題がすぐに解決するとは限りません。
それでも、言葉にすることで、
「自分はこんなことに苦しんでいたのか」
「本当は、ここがつらかったのか」
と、自分の気持ちに気づくことがあります。
誰かに聴いてもらううちに、頭の中が少し整理される場合もあります。
「消防士は強くなくてはならない」と思っていた

私が消防士だった頃、災害や事故の現場で、多くの命と向き合いました。
人の生命に関わる仕事ですから、緊張する場面もあれば、心に深く残る現場もありました。
けれども、当時の私は、
「消防士は強い存在でなくてはならない」
と思っていました。
心が傷ついても、簡単には弱音を吐けませんでした。
苦しくても、それを外へ出さず、自分の中へ押し込んでしまうことがありました。
けれども、強く見せることと、心が傷つかないことは別です。
どれだけ経験を積んだ消防士でも、一人の人間です。
つらい現場では心が揺れます。悲しいものは悲しいし、苦しいものは苦しいのです。
今振り返ると、強がることよりも、
「あの現場はつらかった」
「今日はしんどい」
と、安心して言える相手や場所を持つことが大切だったのだと思います。
弱音やグチを悪者にしなくていい

「ありがとう」
「楽しい」
「うれしい」
「幸せ」
そんな明るい言葉を口にすることは、とてもよいことだと思います。
ただ、苦しいときまで無理にプラスの言葉へ置き換えようとすると、自分の本当の気持ちが置き去りになることがあります。
悲しいときに悲しいと思うことも、不安なときに不安だと感じることも、人間として自然なことです。
大切なのは、マイナスの感情を「こんなことを感じてはいけない」と否定しないことです。
まずは、
「今、自分は疲れているんだな」
「ずいぶん無理をしていたんだな」
と、自分の状態を認めてみる。
弱音は、怠けている証拠ではありません。
心が「少し休ませてほしい」「誰かに気づいてほしい」と伝えている言葉かもしれません。
ネガティブな感情については、こちらの記事にも書いています。
弱音を吐ける場所がありますか
弱音を吐くときには、安心して話せる相手や場所を選ぶことも大切です。
家族や友人、信頼できる同僚や上司など、話をさえぎらずに聴いてくれる人がいれば、
「少しだけ話を聞いてもらってもいい?」
と声をかけてみてください。
すぐに話せる人が思い浮かばなければ、ノートや紙に気持ちを書き出す方法もあります。
上手な文章にする必要はありません。
「疲れた」
「腹が立った」
「本当は悲しかった」
と、浮かんだ気持ちをそのまま書くだけでも、自分の心を見つめるきっかけになります。
そして、身近な人には話しにくいことや、自分一人では整理できない苦しさは、カウンセラーや医療機関、公的な相談窓口へ話してもよいのです。
相談することは、負けることでも、弱さを認めることでもありません。
一人だけで抱え込まないための方法の一つです。
グチをこぼすことと、誰かを傷つけることは違う
グチをこぼしてもいいと言っても、誰に、どのように話してもよいわけではありません。
グチをこぼすことと、誰かを責め続けたり、傷つけたりすることは違います。
話す前に、
「今、少しだけ聞いてもらってもいい?」
と尋ねてみる。
相手が疲れていたり、忙しかったりするときには、別の時間にしてもらう。
話を聞いてくれたら、
「聞いてくれてありがとう」
と伝える。
そんな小さな配慮も必要だと思います。
また、グチを話すときには、相手に答えや解決を求めているとは限りません。
「解決してほしいわけではなくて、今日はちょっと聞いてほしい」
と先に伝えておけば、お互いに気持ちが楽になることもあります。
弱音だけでは支えきれないときもある
誰かに弱音を吐くことで、心が少し軽くなることはあります。
しかし、それだけでは支えきれないほど心が疲れていることもあります。
眠れない、食欲がない、何もする気になれない、仕事や日常生活に支障が出ているなど、つらい状態が続いているときは、一人で我慢せず、医療機関や専門の相談窓口へ相談することも考えてください。
厚生労働省の「こころの耳」では、働く人やその家族を対象に、電話、SNS、メールによる相談窓口が案内されています。
身近な人へうまく話せないときは、専門の相談員に聴いてもらうという方法もあります。
弱音を吐けることも、本当の強さ
心が疲れているときに、無理やり前向きになろうとしなくてもよいと思います。
まずは、
「つらい」
「しんどい」
「今日は頑張れない」
と、自分の気持ちを認めるところから始めてもよいのです。
弱音を吐くことは、前に進むことを諦めることではありません。
今の自分を守るために、いったん立ち止まることです。
心が少し休まり、自然に前を向けるようになってから、また歩き出せばよいのではないでしょうか。
いつも元気でなくてもいい。
いつも笑顔でなくてもいい。
強い人にも、弱音を吐ける相手や場所は必要です。
私も消防士だった頃、もっと素直に、
「今日はつらかった」
と言えていたらよかったのかもしれません。
あなたにも、安心して弱音を吐ける場所がありますか。
もし今、心の中に抱えているものがあるなら、信頼できる誰かに、ほんの少しだけ話してみてください。
心の健康についての講演
私は、消防士として命と向き合った経験や、家族の心の病気に寄り添った経験をもとに、心の健康について講演しています。
強く見える人にも、弱音を吐ける相手や場所が必要です。
職場や地域で、互いの心の変化に気づき、声をかけ合うことの大切さを、実体験とオリジナルソングの弾き語りを交えてお伝えしています。

