「安全」への取り組みは地味だが一番大切なもの

企業安全大会のステージで講演する石川達之

「あの時、もっと声をかけてやればよかった」
「悩み事があったみたいだったのに、もっと気をつけてやればよかった」

いろんな業種の労災事故に現場に出動してきました。

鳥取県の3つの消防局の中でも一番小さな消防局で現場活動してきました。
田舎だからこそ、後日、関係者とたまたま出会って話す機会もありました。

そんなときに、何度かそんな言葉を聞くことがありました。

不安全行為に結びつく要因に、そんな心の問題も含まれていても、統計上の数字には表れてきません。
そして、事故現場の真の悲惨さは、その場に居た者にしかわかりません。

だからこそ、私が伝えなくては!
そんな思いが、私の中には強くあります。

目次

自分でも気づかないうちに疲労が蓄積している

職場でいつも元気だった同僚が、メンタルを壊して自宅療養している。
そんなことも今は珍しくない時代になりました。

肉体的にも精神的にも人一倍つよいと思っていた人が、いきなりメンタル不調になってしまったというケースもあるでしょう。

本人も気づかないうちに、仕事に集中できない状態になってしまうことも少なくありません。

ふだんから精神的に打たれ強い人でも、肉体の疲労が続いて体力が落ちていれば、いつもなら耐えられる程度のストレスを受けて、メンタル不調になる可能性が高いのです。

自分では、そんなに重篤な状態になっているとはまったく気づかないまま、休まずに仕事をしていることで、状況はとても悪くなります。

自分ではその状況が受け入れらなくて、無理をして頑張ってしまう人が多いのが日本人です。

しかし、頑張ることでよけいに体調が悪くなった結果、労災事故を起こしてしまうというケースがありました。

私は、救急隊員として現場に行き、機械に巻き込まれた人や、プレス機で負傷した人などを、手当しながら搬送するだけなので、それまでの過程はわかりません。

後日、関係者の方とたまたま出合って話しました。

「なんだかいつもの調子じゃないなぁとは思ってたんですが、そこまでメンタルが弱っていたとは気づかなくて」

同僚とはいえ、プライベートなことはわかりませんし、本人がどんな悩みを抱えていたかはわかりません。

それでも、調子が悪そうだと気づけば、勤務を休むことや、ふだんよりも長めに休憩を取ることをすすめることが大切だと教えられました。

本人も、自分の肉体疲労、精神疲労を見くびらずに、休息を取ることや、悩みがあれば誰かに打ち明けることを心がけることがとても大事なことです。

労働衛生安全大会で歌う石川

相談することや愚痴をこぼすことも必要

私が勤務していた消防局は、近年女性消防官も増えてきましたが、やはり圧倒的に男性が多い職場です。

昔から、男らしさが一番というような気風がありました。そんな職場ですから、男性はとくに、職場の同僚に自分の弱みを見せたくないと考えがちです。

家庭内の悩みはもちろん、悲惨な現場で活動してショックを受けて動揺したなどということを、知られたくないので、無理をして平静を装います。

ふだんは前向きで、ポジティブシンキングでいいのですが、心身が弱っているときには、モードを変える必要があります。

しかし、自分の感情を吐き出さずに、必死に封じ込めていると、いつか爆発して心という器を壊してしまうことがあります。

心が弱っているときならば、誰かに愚痴をこぼすことも有効なストレス解消法です。

誰かに話を聞いてもらうだけでも、心は癒やされます。

一番大切なのは「安全」

安全への取り組みは、一番たいせつなことです。

いくら素晴らしい仕事をしても、事故が頻発したり、生命を失ったりすることがあれば、企業自体が成り立たなくなってしまう可能性があります。

「安全」の大切さはわかっていながら、日常に流されて、慣れで作業してしまい第事故になった現場も行きました。

消防機関の大きな事故のニュースを見ることもあります。
安全第一が身にしみてわかっているはずの職業でも、危険をおかしてしまうことがあるのです。

「安全」への地道な努力は、ふとおかしてしまう危険を回避するためには必要なものです。

救急・救助隊長として出動してきた労働災害、交通事故現場の体験を通して、日々無事であることのありがたさを身にしみて感じてきました。

ひとたび事故が起これば、職場も家庭も地域も悲しみ苦しみのどん底を味わうことになります。

そのことを再認識していただくためにも、事故現場の生々しい話もさせていただいています。

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