「自己肯定感を高めましょう」と言われても、どうすればいいのか分からない。
自分を褒めようとしても、できなかったことばかり浮かんでくる。そんなときに「もっと自分を好きにならなければ」と言われると、できないことが一つ増えたように感じるかもしれません。
私にも、自分を責め続けていた時期がありました。
消防士時代、ある上司との関係に、強いストレスを感じていました。その人は仕事ができ、判断も速く、部下から尊敬を集めていました。私自身、助けてもらったことがあります。
一方で、こちらのミスにはとても厳しく、ほかの署員の前で大声で叱責されることもありました。それもつらいことでしたが、私をさらに苦しくさせたのは、その上司に尊敬できるところもあったことです。
上司は自分の経験と判断に強い自信を持っていて、私の意見を最後まで聞こうとしないことがありました。私にも考えがあり、学んできた知識があります。それを伝えようとしても、受け止めてもらえない。
すると、周囲から評価されている上司とうまくやれないのは、自分のほうが間違っているからではないかと考えるようになりました。
やがて、その人と同じ空間にいることさえ息苦しくなりました。
立派な人の前で、自分が小さくなっていった
相手に悪いところしか見えなければ、「あの言い方はおかしい」と思えたかもしれません。
でも、その上司にはよいところがありました。仕事ぶりを認めていましたし、助けてもらったこともあります。だから、嫌だと感じるたびに、そんなふうに思う自分を責めていました。
上司の判断がいつも正しいとは思えず、私にも譲れない部分がある。それでも「これだけ周囲から尊敬されている人とぶつかるのは、自分が未熟だからではないか」と考えてしまうのです。
叱責されたつらさも、話を聞いてもらえなかった悔しさもありました。けれど私は、その気持ちまで自分の未熟さとして片づけようとしていました。
今なら、こう思います。
相手が立派な人であることと、自分がその関係に傷ついていることは、別の問題です。
仕事について反省すべき点があったとしても、人前で大声で叱責されてつらかった気持ちまで、なかったことにする必要はありません。
自己肯定感が下がっているとき、私は「自信をつけるために、もっと頑張らなければ」と考えがちでした。でも、頑張りが足りないから苦しいとは限りません。自分を変えようとする前に、「何がつらかったのか」を自分で認めることも大切だったのだと思います。
救急現場で、日常の見え方が変わった
私は32年間、消防士として救急や災害の現場に出動してきました。そこでは、昨日まで続いていた暮らしが、突然変わってしまうことがあります。
そんな現場を経験するうちに、大切な人が元気でいてくれることや、今日も無事に一日を過ごせることを、以前よりありがたく感じるようになりました。身近な人に感謝を伝える機会も増えました。
それでも私は、職場の人間関係に苦しみました。
「日常はありがたい」と知っていることと、「今、私はつらい」と感じることは、同時に起こります。ありがたいことに目を向けられない日があっても、その人の心が足りないわけではありません。
仕事で認められなかった日にも、私には仕事の評価だけでは測れない日常がありました。救急現場で見てきたことは、ときどき私にそれを思い出させてくれます。

自己肯定感が低い自分まで、責めなくていい
自己肯定感を高めたいと思う人は、すでに「今の自分では駄目だ」と苦しんでいることがあります。そこへ「前向きに考えよう」「毎日、自分を褒めよう」と言われても、すぐにはできないかもしれません。
できなくても、心が弱いからではありません。
厳しい言葉を繰り返し受けたり、意見を聞いてもらえない関係が続いたりすれば、自分の考えに自信を持ちにくくなることもあるでしょう。そんなとき、自分だけに「変われ」と言い続けるのは苦しいものです。
自分を好きになれない日には、無理に好きになろうとしなくてもいいと思います。
まずは、自分の感じたことを否定しない。
「あの言葉はつらかった」「今日は疲れている」。それくらいの言葉で十分です。すぐに理由を分析したり、立派な結論を出したりしなくてもかまいません。
自分を責める言葉を、一つ減らしてみる
「今日はうまくできなかった」。それは事実かもしれません。でも、そこから「だから自分は駄目だ」と、自分のすべてを決めなくてもいい。
うまくできなかったことについて考えるのは、少し元気が戻ってからでもできます。疲れ切っている日は、反省より先に休むことが必要かもしれません。
もし誰かとの関係の中で、いつも自分ばかり責めているなら、信頼できる人に話してみるのも一つの方法です。話がまとまっていなくても、「うまく説明できないけれど、つらい」と伝えるところから始められます。
当時の私に「もっと自信を持て」と言っても、きっと届かなかったでしょう。
けれど、「つらさまで、自分のせいにしない」という言葉なら、少しは耳を傾けられたかもしれません。
私は現在、消防士時代の経験とオリジナルソングを交えながら、心の健康について講演しています。自分を責めてしまう心や、身近な人の気持ちにどう向き合うか。そんなことも、実体験を通してお伝えしています。
講演を企画されている方は、心の健康講演会の内容をご覧ください。

