夢破れても生きる力を失わないで(日本海新聞コラム)

日本海新聞に掲載された石川達之のコラム

数年前から保護者会主催の講演会講師とし招かれることが多くなりました。

ほとんど保護者対象なのですが、先月は、北海道二海郡八雲町の八雲中学校と落部中学校、そして私の母校である湯梨浜町立東郷中学校と、3度も中学生を前に話す機会がありました。

勉強にもスポーツにもまったく関心のなかった中学1年生の私が、ビートルズや武者小路実篤、宮沢賢治との出合いをきっかけに胸をときめかせながら音楽と小説の世界にのめりこんでいった体験を話しました。

当時の体験があったからこそ、人に何かを伝えたいという思いが芽生え、それが今の仕事に結びついています。

そんな私でしたが、中学の時はもちろん、大人になるまで夢はありませんでした。

体育館で私の言葉に耳を傾けていた彼らの多くも、もしかしたらまだ自分の夢を見つけられていないのかもしれません。

書店の棚には、「夢をかなえるための〇」「○○で必ず夢はかなう」などという夕イトルの本がたくさん並んでいます。

しかし実現して座れる席がとても限られているからこその「夢」で、座ることのできない人のほうがはるかに多いのが現実です。

夢破れて挫折したとしても、どの本の著者も責任をとってくれるわけではあません。
逆に、傷ついた心を、「努力が足りない」「あきらめるな」とさらに追いつめるばかりです。

夢があるから偉いわけでも、夢がないから悪いわけでもない。
ただ夢があると、つらいことも耐えられたり、がんばることが楽しくなったりする。

夢が一つじゃなかったり、追いかけているうちに別の夢に変わったりすることもある。

たとえ夢が破れたとしてもそれで終わりじゃない。
一生懸命夢を追いかける過程で、学ぶことはたくさんある。
そんなことを伝えました。

われわれ大人の役割は、子どもたちの夢の応援だけではなく、大きな挫折を経験した時に、生きる力を決して失わない強い心を育てることや、生きる楽しさを伝えることではないかと思います。

東郷中学校では、第二校歌として歌い継でいただいている「梨のうた」を、「作者である先輩と一緒に」ということで、全校生徒と合唱しました。

若く力強い歌声を聴きながら、「君が夢さえ忘れなきゃ、いつかは開く白い花」という歌詞を書いたときの、自分の息子に対する思いを思い出し、胸が熱くなりました。

当時、ペンを握りながら、いろんな情景を思い出していました。
遠く離れて暮らす息子たちを見守ることしかできず、思いをうまく伝えられないもどかしさがよみがえりました。

力強く歌う生徒たちが成長する過程で挫折して迷い悩む日々が来たとしても、いつかは白い花を咲かせてほしい。
どんな形に実るかわからないが、その果実が二十世紀梨のように甘くなることを祈りながら歌いました。

日本海新聞「潮流」の記事画像
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