心の中が震えるほどの感謝

病院の外観画像

今年の四月に、箕面青年会議所の定例会で講演をさせていただきました。

どのような講演内容にするかについて、昨年から何度も担当の方々と打ち合わせました。実際に私の講演を聞いてみようと、倉敷市まで講演を聞きに来られました。

それでも意見が分かれ、最終的に、消防職員時代の体験をメインに、ということになりました。タイトルは「感謝」としました。いかにもありふれたタイトルでしたが、「一番伝えたいことは?」という問いかけに答えたものでした。

歌を入れない話だけの講演は初めてで、さらに消防の体験談を主にすることも初めてでした。記憶に残る現場を思い出して文章化していくうちに、20年前、30年前に出動した救急や火災現場のことを次々に思い出しました。

目の前で亡くなる多くの方々を見てきました。経験を重ねていくほどに「人の死」に慣れる部分もあれば、「自分はなんのために生きているのか」「自分にとって一番大切な物は何か」について、より深く考えるようにもなりました。思い出すままにエピソードをメモして行きました。遠い昔の記憶がありありと蘇りました。

「どうか助けて下さい。なんとかして下さい。大丈夫ですよね? 助かりますよね?」

全身汗だくでCPRを続ける私たち救急隊員に取りすがりながら、何度も何度も祈るように問いかける家族の声。

「この人はかわいそうな人なんです。お願いですから助けて下さい」
 医師から、ご主人に処置のしようのないことを告げられ、泣きじゃくる奥さんの声。

「頑張れー! お前はずっとずっと頑張ってきたがな。部活も勉強も、あんなに頑張ってやって来たがな。頼むから目を開けてくれー!」
心肺停止して臨終を告げられた息子の肩を揺すりながら絶叫する父親の声。

たくさんの声、いろんな光景がまざまざと蘇ると、涙が流れ、止まらなくなりました。心の中が震えるほど、体中がギュッとしぼり上げられるほどの切なさで、自分が、そして自分の大切な人たちが、今生きていることのありがたさを感じました。

「大切な人といつどんな別れ方をするのか、誰にも分かりません。できれば普段はそんな不吉なことを考えないでいたいと思うのが自然でしょう。それでも、時には立ち止まって、自分の生き方を見つめ直し、家族・友人に心から感謝することを忘れずにいたいと

(新聞の月一コラムに掲載されたエッセイです)

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