台風が来襲したとき
地震の揺れを体感したとき
多くの人が実際に危険を感じるのは、そんなときではないでしょうか。
それ以外では、テレビニュースで災害のニュースを目にしたとき、あるいは自治体が配布したハザードマップを手にしたときなどに、避難場所や防災グッズのことを考える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、避難場所への経路を確認したり、生活圏の危険箇所を意識することも、ふだんはなかなかないのが実情ではないでしょうか。
自分の住んでいる地域を「もし災害になったら」という視点で眺めながら歩いてみないと、気づかないことがたくさんあるのだということに、あらためて気づく機会がありました。
今回は、自分の地域の特性を意識することや、災害に対して想像力を働かすことや、人間の意識が「避難」の邪魔をすることについてお話したいと思います。
「支え愛マップ」づくり
2020年11月3日、鳥取県倉吉市服部公民館の区民の集いが開催されました。
午前中は、日野ボランティアネットワークの森本智喜さんが講師で、実際に区民の参加者が地域を歩き、危険箇所を自分たちの目で見てまわりました。
森本さんは、ずいぶん以前からの知り合いなのですが、この日は久しぶりの再会でした。
全国各地の災害現場にボランティアとして支援にあたってきた豊富な経験をお持ちで、防災、災害支援の指導をされています。
森本さんの世間話のような口調で何気なく質問された言葉で、ふだん歩くことがあっても気づかなかった危険箇所を発見したり、
日頃は車で通過するだけなので、ピンポイントで見ることのできなかった危険箇所に気づいたりと、見慣れた日常風景の中にいくつもの新たな発見があったようでした。
公民館では、コロナ禍ということでマスク着用、密状態を避けながら「支え愛マップ」づくりが始まりました。
この日、私が講演をするのは午後からでしたが、この「支え愛マップづくり」に興味があったのと、久方ぶりに森本さんにお会いできるということもあり、朝早くから参加させていただきました。
住み慣れた地域の地図を前にされると、皆さんの話が盛り上がり、地域外の私も興味深く耳を傾けました。
「支え愛マップ」につきましては下の鳥取県社協総務部さんの動画で概要がわかります。
元消防士とはいえ、現場で活動する側だったので、森本さんのような実体験にもとづく災害支援活動の深い知識などはありません。
「支え愛マップ」についても、県のサイトでチラッと見た程度でした。
災害が起これば、地域の住民同士で支え合わなければ、自治体や国の支援だけでは避難も避難所生活も多くの困難が生じることは、テレビで流れる災害時の報道で私たちも感じるところです。
地域に住む住民同士が力を合わせ、支え合うことで、一人では気づかなかった危険箇所を知ることができ、いざ目の前に危険が近づいてきたときに力になるのは地域の住民です。
「支え愛マップ」を作ることで、住民同士が話し合うきっかけになり、つながりを深めることになります。
避難時に、支援が必要な人の存在を、近くに住んでいても知らないこともあります。
災害といっても、地震と水害では避難経路も異なってきます。
幅広い年齢層で話し合うことで、過去の災害の経験を役立てたり、最新の情報を共有することもできます。
森本さんの問題提起をきっかけに、参加された方それぞれが情報を出し合い、和気あいあいとしたムードで進行して行きました。
森本さんのまとめの
避難の支援する側とされる側という一方通行の図式的なものではなく、住民がそれぞれ支え合うことが一番大切
という言葉に感動しました。
確かに、若者であってもケガをすることもあれば、病気をすることもあります。そんなときに災害が来ないという保証はありません。
身体が不自由でも、土地情報に詳しい人からアドバイスを得ることだってあるでしょう。
そう考えると、非常時だけではなく、日頃の生活の中に「支え愛」の心があることがとても大切であることに、あらためて気づかせていただきました。
想像力を働かすことが防災
「支え愛マップづくり」に続いて消防署職員により、消火訓練と、起震車による地震体験、スモークマシーンで煙を満たした公民館の中を進んでいく煙体験がありました。
私にとっては、とても懐かしい光景でした。
訓練指導で何度となく市民の皆さんにお話をしてきました。
子どもから高齢者まで、いろんな年齢層の方に地震の揺れを体験していただくために、保育園から高齢者施設まで、起震車に乗っていただきました。
「これはすごい!こんな揺れが会社にいるときにきたら・・・」
「寝室で寝ている夜中にこんな地震が来たら・・・」
と、リアルに想像力を巡らせる方もいれば、楽しそうに叫び声をあげる人もいました。まあ、その気持もわからないではありません。
しかし、せっかくの体験なので、うちに帰って、
「もし今、あの揺れがやってきたらこの部屋はどうなるだろう?」
と想像力を働かせて、避難経路の確認をしたり、家具の転倒防止対策をやったりするきっかけにして欲しいんですと、消防士時代にお話していました。
人はみな自分だけは死なないと思っている
午後は、私担当の講演タイムでした。
いつものようにメンタルヘルスについて話し、歌い、さらに今回は避難についても話しました。
これは当時強い印象を受けたテレビニュースの一コマですが、
「えー、こんなに短時間でこんな水位に!」
という驚きと、
「うそぉー、こんな水位になるまで逃げないなんて!」
と2重の驚きがありました。
しかし、これは他人事ではないんですね。
スマホに災害を知らせる緊急速報メールを受信したり、Jアラートが鳴っても、避難しない人の方が多いのが現状です。
人間には「正常バイアス」というものが備わっています。
正常性バイアスとは、
自然災害や火事、事故、事件などといった自分にとって何らかの被害が予想される状況下にあっても、それを正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい、都合の悪い情報を無視したり、「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」などと過小評価するなどして、逃げ遅れの原因となる
Wikipediaより
というように、危険が迫っても「まだまだ大丈夫」とか、
「大きな災害がやって来るのはまだ今日じゃない」などと、無意識に思ってしまうようにできているそうです。
多くの人は、誰もに必ず「死」がやって来るということは頭ではわかっていても、「自分だけは死なない」と思いながら日常生活を送っているものです。
あのテレビニュースの映像を見るたびに、自分だって誰かに促されないと避難を決断できない可能性もなくはない、という思いになりました。
「避難して被害がなかったら、逃げ損なんかじゃなくて、ラッキー!と、私自身も思えるように行動したいと思います」
そんな話をすると、参加された皆さんはうなづいていました。
避難をためらう心を押してもらう意味でも「支え合いマップ」のように、地域の人たちとつながりあうことが大切なんだと、あらためて感じました。
講演終わりに、アンコールの拍手をもらい、リクエスト曲で大いに笑っていただきました。
「最悪を想定して、最善を尽くす」という名言がありますが、さらに付け加えて、
「最悪を想定して、最善を尽くし、明るく生活する」目指したいと思います。