JR福知山線の脱線事故、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、東日本大震災など、大災害、大事故があるたびに、消防庁から「消防職員惨事ストレス対策」についての取組み指導がなされてきました。
時間が経過しても悲惨な光景が突然よみがえったり、感情が湧かなくなったり、うつになったりするケースが多いので、その対策を講じなさいということでした。
その内容は、同じ現場を体験した出動隊員同士で、当時感じた自分の感情について話し合う、気分のリフレッシュをはかる、診療内科等の専門家に相談するというものでした。
そのほかの対策の中に、「家族や友人を大切にする」という項目がありました。
具体的な出来事を話さなくても、一緒に時間を過ごすだけで気持ちが晴れる、という説明でした。そのことを「心の健康講演会」で話してきました。
惨事を経験する場合だけではなく、愛する人との突然の別れや、仕事や人間関係で悩んだ時でも、その対策は大きな助けになると考えたからです。と言いますのも、私自身が、長い消防生活の中で半年ほどプチうつ状態の経験をしたからです。
それには具体的な原因がありましたが、誰にも話せずにいました。いつも陽気に振舞っていたので、家族や友人、同僚にも気づかれずにいました。
一人になると大きなため息ばかりが出てくる日々でした。
そんな時に私を救ってくれたのが、当時はまだ幼かった息子たちでした。家族で何度もキャンプや山歩きに出かけました。子供たちの笑い声や、けんかして泣く声を聞きながら、少しずつ元気を取り戻しました。
子供たちが成長して巣立って行ってからは、なおさら当時の時間は宝石のような思い出になっています。
心が元気をなくした時こそ、家族と一緒の時間を過ごすことが、大きな癒しになります。普段は意識していなくても、自分と近しい関係の人が、ちゃんとそばにいてくれていると感じられることは、幸せなことだと思います。そんな幸せを感じていられるために、少しでも言葉や態度で感謝を伝えたいと考えるようになりました。
今年、研修会でお世話になった労働基準協会の高塚事務局長さんから、労務管理を円滑に進めるために欠かせないことして、「ほんわか」が大切だと教えていただきました。
「ほ」める、「わ」らう、「か」んしゃする。それらは、職場だけではなく、家庭や地域、対人関係すべてにおいて大切な秘訣だと思いました。
照れくささを乗り越えて、感謝を伝える努力を続けて行きたいと思います。
(新聞の月一コラムに掲載されたエッセイです)