春と言えば、穏やかな気候で熱中症の心配はまだまだ先のことと思われがちですが、近年の気候変動により、春にも熱中症患者が増加しています。
今年の救急搬送件数はまだ公表されていませんが、テレビのニュースではしばしば報道されるようになりました。
毎年、夏季に開催される衛生労働安全大会の講演のご依頼をいただく際に「熱中症についても話してください」というご要望があります。
業務中に熱中症になれば、労働災害となる場合もありますし、大きな事故につなげないためにも、熱中症の予防は重要なものになります。
この記事では、そんな春の熱中症対策について、元消防士で救急隊員として熱中症の方を搬送してきた経験も踏まえて、水分補給、衣服選び、救護などを解説していきます。
水分補給と塩分摂取
水分補給は熱中症予防の基本です。
気温、湿度が高いときには、たとえ喉が渇かなくても、定期的に水分を補給しましょう。
屋外で作業される方も、仕事に集中すると喉の渇きに気づきにくくなります。
スポーツなども、熱中するとついつい水分補給を怠りがちになります。
さらに、汗で失われる塩分も補給することを忘れてはいけません。
実際に、私が熱中症で救急搬送した人で、 「水分補給はしていました」 と答える人がけっこういました。
よくよく聞いてみると、水やお茶だけ飲んでいたので、発汗するための塩分が不足したようです。
水だけではなく塩分を補給する必要があります。
なるべく、ミネラルも含まれているスポーツドリンクや経口補水液を飲むように心がけましょう。
水分は一気に飲むより、こまめに補給するほうが体が必要な水分を効率的に吸収できるようになります。
衣服に注意
衣服も、熱中症対策に役立ちます。通気性の良い素材や、吸湿速乾性のある衣類を選びましょう。
衣服の色についても、黒色は熱を吸収しやすく、白色は反射しやすいため、白色の衣服を選択することが推奨されています。
紫外線の心配も、今はUVカットのものが多種販売されているので、白色を選んでも日焼けの心配はそれほどないでしょう。
適切な休憩と適度な運動
最近の研究では、春に適度な運動で汗をかくことで、暑さに慣れ、汗腺の働きが向上し、暑い夏でも体温調節がスムーズに行われるとされています。
また、運動により水分補給の習慣が身につくことも、熱中症予防に役立ちます。
しかし、運動を行う際は無理をせず、体調や気候に応じた適度な強度を選ぶことが重要です。 無理な運動は逆に熱中症のリスクを高めるため、注意が必要です。
睡眠不足の注意
睡眠不足は、体力低下や免疫力の低下を起こすことがあり、熱中症リスクが高まります。
適切な睡眠時間や質の確保は、熱中症予防な要素となります。睡眠は全体的な健康維持にもつながるため、熱中症対策だけでなく、健康管理全般にも注意しましょう。
十分な睡眠をとるという点でも、適度な運動を心がけることが役立ちます。
逆に、過度な運動やハードワークは疲労を残すため、ある程度睡眠をとったとしても、熱中症のリスクを高めることになるので、あくまで「適度」を保つようにしましょう。
室内での熱中症対策
熱中症といえば、屋外でのスポーツや作業中に起こるというイメージが強いのですが、実は屋内での熱中症の発生件数も増加しています。
私自身も屋内での熱中症患者の搬送経験があります。 その多くは高齢者でした。
窓を開放し、室内の換気をしましょう。
温度によっては、春でもエアコンで部屋を冷やしましょう。
熱中症の初期症状
熱中症の初期症状には、めまい、立ちくらみ、失神、頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、筋肉痛、こむら返りなどがあります。
その前段階として、集中力低下や判断力低下などの症状が現れることがあります。
熱中症が疑われるときの応急処置
周囲の人に熱中症の症状が疑われる場合、急速な対応が命を救います。
まずは涼しい場所で休ませ、水分、塩分を経口補水液などで補給させましょう。
さらに、衣服を脱がしたり、襟元を開けましょう。
脇の下や首筋などの大動脈が通っている部位を、冷たいペットボトルなどで冷やすことも効果的です。
これらの部位を冷やすことで、体温を効率的に下げることができます。
厚生労働省のサイトでは、
自力で水が飲めない、応答がおかしいときは、ためらわずに救急車をよびましょう
厚生労働省「熱中症予防のための情報・資料サイト」
救急隊としての経験でも、搬送中に、さっきまで自分の症状について話していた人が、ごく短時間で意識を消失されたこともあります。
ほとんどの方が、
「まだ熱中症にはほど遠い。ぜんぜん大丈夫だ」
と暑さをがまんされていたようです。
救急車呼ぶのは大げさだとか、恥ずかしいなどと考えずに、大事をとりましょう。
高齢者への対策
私が搬送してきた中でも、屋内の場合のほとんどが高齢者です。
高齢になると、暑さ寒さ、喉の渇きや体の不快感に気づきづらい人が多くなります。
ほとんどが、自室でぐったりしているところを発見した家族から救急要請があったというケースです。
そのような場合、医療機関に搬送しても亡くなられるケースが多いです。
やはり、躊躇せずすぐに救急要請する必要があります。
エアコン使用の工夫
私が出動した熱中症患者救急搬送事例では、夏の昼下がり、布団に入って横になっていたおじいさんの呼吸がないという要請がありました。
到着してみると、心肺停止状態でした。
家族の方は、エアコンのスイッチを入れて冷やしていると思っていたそうですが、実際にはエアコンは停止状態で、部屋は蒸し風呂のようになっていました。
その上、布団に入っているのですから、高齢者ではなくても危険な状態です。
高年齢になると暑さ寒さの感覚も鈍りますが、一方、エアコンの風がどうしても苦手で、できるだけ使いたくないとおっしゃる方も多いです。
冷風が体にかかるだけでも不快だったり、中には痛みとして感じたりする方もいます。
そんな場合は、エアコンの風向きをし、直接冷風が当たらないようにします。また、天井に向けたり、壁に反射させることで、間接的に冷やすことができます。
また、エアコンに加えて扇風機を使うことで、冷気を循環させることもできます。
もちろん、過度に低い温度にすることは避ける必要があります。
家族がエアコンを使うように説得しても、なかなか納得しない高齢者もいます。
そんな場合は、温度計を設置して、その数値を見せることで納得させるのもひとつの方法です。
事前に設定温度を話し合っておいて、 「この温度を越えたからエアコンを入れますよ」
と納得してもらうのです。
スムーズに納得してもらうために、日頃からのコミュニケーションも大切になります。
曇りの日でも安心しない
熱中症になりやすいのは、強い日差しと高い気温だけではありません。
私が消防士の頃、救急隊として地元の大きなマラソン大会の救護班に配備されることがありました。
曇りの日で、気温もそれほど高くなかったので、救急搬送することもなさそうだと考えていました。
ところが、次々熱中症になる人が続出して、救急隊は近くの病院にピストン輸送し、救護班のテントに敷かれたビニールシートにはたくさんのランナーが横たわり、点滴を受けていました。
その日は、湿度がとても高い日だったので、晴天だった年よりはるかに大勢の熱中症患者が出るという結果になりました。
まとめ
熱中症予防には水分補給、衣服選び、適切な休憩や運動、睡眠不足に注意することが重要。
初期症状にはめまいや頭痛などがあり、周囲に熱中症が疑われる場合は涼しい場所で休ませ、水分や塩分を補給し、衣服を脱がせることが効果的。
高齢者への対策やエアコン使用の工夫、温度計設置による自覚促進も必要で、曇りの日でも熱中症になりやすいため注意が必要です。
春なのに熱中症患者が増加している現状ですが、ここ数年の気温上昇から考えても、夏にはさらに熱中症のリスクが高まります。
今の季節から、適度な運動で汗をかき、規則正しい生活を継続して予防していきましょう。