春の熱中症襲来!知っておきたい予防と対処法

熱中症で日陰に座り込む女性

春になり、暖かい日が増えてきました。

日中には汗ばむほど気温が上がる日もありますが、

「まだ春だから、熱中症は大丈夫」

と思っていないでしょうか。

真夏なら、エアコンを使ったり、こまめに水分を取ったりします。しかし春は、暑くなっても窓を開けるだけで済ませ、熱中症への備えが遅れがちです。

特に注意したいのが、高齢者の室内熱中症です。

私は32年間の消防生活で、救急隊員として多くの熱中症患者を搬送しました。屋外で倒れた方だけでなく、自宅の部屋でぐったりしているところを家族に発見された高齢者も少なくありませんでした。

この記事では、その経験をもとに、家庭で気をつけたい春の熱中症と、高齢の家族を守るための対策をお伝えします。

目次

春は体が暑さに慣れていない

ウォーキング中に水分補給する高齢者

春は、朝晩と日中の気温差が大きい季節です。

前日まで涼しかったのに、急に気温が上がることもあります。

体が暑さに慣れることを「暑熱順化」といいます。暑さに慣れていない時期は、汗をかいて体温を調節する働きが十分ではなく、熱中症に注意が必要です。

また、熱中症の危険は気温だけでは決まりません。

湿度が高い、風が弱い、日差しが強いといった条件が重なると、体の熱が逃げにくくなります。

「真夏ではないから」

「曇っているから」

と安心せず、急に暑くなった日は、室温や湿度、家族の体調を確認してください。

地域ごとの暑さ指数や熱中症警戒アラートは、環境省のサイトで確認できます。

環境省「熱中症予防情報サイト」

家の中でも熱中症は起きる

熱中症というと、炎天下でのスポーツや屋外作業を思い浮かべるかもしれません。

しかし、熱中症は家の中でも起きます。

日当たりのよい部屋、風通しの悪い部屋、熱がこもりやすい台所や浴室などでは、外気温以上に室温が上がることがあります。

厚生労働省は、熱中症を、高温多湿な環境で体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温調節機能がうまく働かなくなったりして起きる障害の総称と説明しています。

熱中症予防のための情報・資料サイト|厚生労働省

室内にいるから安全とは限りません。

特に、一人で過ごす時間が長い高齢者は、体調が悪くなっても周囲に気づかれにくいため注意が必要です。

エアコンが動いていると思っていたのに

救急隊員として、忘れられない出動があります。

夏の昼下がり、

「高齢の家族が布団の中で動かない」

という救急要請がありました。

到着すると、その方は心肺停止状態でした。

部屋は蒸し風呂のように暑く、ご本人は布団に入った状態でした。

ご家族は、エアコンのスイッチを入れて部屋を冷やしていると思っておられました。

ところが、実際にはエアコンが停止していました。

リモコンの操作を間違えたのか、途中で停止したのか、詳しいことは分かりません。

この経験から、エアコンは「つけたつもり」で終わらせず、実際に冷たい風が出ているか、室温が下がっているかまで確認する必要があると感じました。

高齢の家族に、

「暑くなったらエアコンをつけてね」

と伝えるだけでは、十分ではない場合があります。

高齢者は暑さや喉の渇きに気づきにくい

高齢になると、若い頃と比べて、暑さや喉の渇きを感じにくくなることがあります。

本人が、

「暑くない」

「喉は渇いていない」

と言っていても、室温が高く、体の水分が不足している場合があります。

また、トイレが近くなることを気にして、水分を控える人もいます。

「昔はエアコンがなくても平気だった」

「これくらいの暑さでエアコンを使うのはもったいない」

と我慢する方もいるでしょう。

しかし、年齢とともに体温を調節する力や、体内に蓄えられる水分量は変化します。

昔と同じ暑さでも、今の体にかかる負担は同じとは限りません。

本人の感覚だけに任せず、温度計や湿度計の数値も参考にしてください。

エアコンを嫌がる親にどう声をかけるか

エアコンの室内機

高齢の方のなかには、エアコンの冷たい風を嫌がる人がいます。

冷風が直接体に当たると、不快に感じたり、体の痛みを感じたりする場合もあります。

そのようなときに、

「危ないからエアコンをつけなさい」

と強く言うだけでは、かえって反発されるかもしれません。

まず、なぜエアコンを嫌がるのかを聞いてみてください。

風が直接当たるのが嫌な場合

  • 風向きを天井や壁へ向ける
  • 風量を弱くする
  • エアコンから離れた場所で過ごす
  • 扇風機やサーキュレーターで冷気を循環させる

冷えすぎるのが心配な場合

  • 設定温度を極端に下げない
  • 室温計を見ながら調整する
  • 薄手の上着やひざ掛けを使う
  • 就寝時にはタイマーだけでなく、室温の変化も確認する

電気代を心配している場合

「具合が悪くなって入院するほうが、体にも生活にも大きな負担になる」と説明し、家族でエアコンを使う基準を決めておく方法があります。

大切なのは、無理に説得することではなく、本人が何を不快に感じているのかを知り、使いやすい方法を一緒に考えることです。

温度計を見える場所に置く

暑さを感覚だけで判断しないために、温度計と湿度計を、普段過ごす部屋の見やすい場所に置きます。

数字が大きく表示されるものなら、高齢の方にも確認しやすくなります。

家族で、

「室温がここまで上がったらエアコンを使う」

「この表示になったら水分を取る」

という目安を話し合っておくのも一つの方法です。

ただし、エアコンの設定温度と実際の室温は同じとは限りません。

設定画面だけでなく、室温計と本人の体調を確認してください。

日当たり、部屋の広さ、断熱性、エアコンの性能によっても室温は変わります。

水分は「喉が渇く前」に取る

ウォーキングを楽しむ高齢女性

熱中症予防では、喉が渇く前から、こまめに水分を取ることが大切です。

一度に大量に飲むのではなく、食事や休憩の時間などに合わせて、無理のない範囲で補給します。

たくさん汗をかいた場合には、水分だけでなく塩分や電解質の補給が必要になることもあります。

ただし、すべての人が日常的にスポーツドリンクや経口補水液を飲む必要があるわけではありません。

高血圧、心臓病、腎臓病などで、水分や塩分の制限を受けている方もいます。持病がある場合は、医師から受けている指示を優先してください。

水分補給を忘れがちな方には、

  • 起床後
  • 朝食・昼食・夕食時
  • 入浴の前後
  • 就寝前

など、生活のなかで飲む時間を決めておく方法があります。

離れて暮らす親をどう見守るか

高齢の親と離れて暮らしている場合、毎日室温を確認することは難しいでしょう。

その場合も、暑くなり始めた時期には、電話で次のようなことを確認できます。

  • エアコンは動いているか
  • 室温は何度になっているか
  • 水分を取ったか
  • 食事を取れているか
  • 頭痛や吐き気、だるさはないか
  • 受け答えがいつもと違わないか

「大丈夫?」と聞くだけでは、多くの人が「大丈夫」と答えます。

「今日、水は何回飲んだ?」

「温度計は何度になっている?」

「エアコンから冷たい風は出ている?」

と、具体的に聞くほうが状態を確認しやすくなります。

近くに親族や近所の方がいる場合は、暑い日に様子を見てもらえるよう相談しておくのもよいでしょう。

熱中症の症状を見逃さない

室内で休む高齢女性

熱中症では、次のような症状が現れることがあります。

  • めまい、立ちくらみ
  • 大量の発汗
  • 筋肉痛、こむら返り
  • 頭痛、吐き気、嘔吐
  • 強いだるさ
  • ふらつき
  • 集中力や判断力の低下
  • 普段と違う言動
  • 意識障害、けいれん

高齢者の場合、はっきりと「気分が悪い」と訴えるとは限りません。

食欲がない、横になっている時間が長い、返事が遅い、いつもより元気がないといった変化として現れることもあります。

家族が「いつもと違う」と感じたら、本人が大丈夫と言っても、涼しい場所へ移して状態を確認してください。

熱中症が疑われるときの対処法

熱中症が疑われる場合は、次のように対応します。

1. 意識を確認する

呼びかけへの反応がおかしい、普段と違う言動がある、意識がはっきりしない場合は、すぐに119番通報してください。

2. 涼しい場所へ移す

冷房の効いた部屋や、風通しのよい日陰へ移します。

3. 衣服をゆるめ、体を冷やす

衣服をゆるめ、首の周り、脇の下、脚の付け根などを冷やします。

4. 自分で飲める場合に水分を補給する

意識がはっきりしていて、自力で安全に飲める場合に限り、水分や電解質を補給します。

意識がもうろうとしている人や、自力で飲めない人には、無理に飲ませてはいけません。

5. 一人にせず、状態を見守る

涼しい場所へ移したあとも、一人にしないでください。

自力で水分を取れない、受け答えがおかしい、症状が改善しない場合は、ためらわず救急車を要請します。

厚生労働省も、意識がはっきりしない場合や、自力で水分を取れない場合には、直ちに救急隊を要請するよう案内しています。

熱中症が疑われる人への対応|厚生労働省

「大丈夫」という言葉だけで判断しない

救急現場では、

「本人が大丈夫と言ったので、少し様子を見ていた」

という話を聞くことがありました。

本人は、家族に迷惑をかけたくないと思っているかもしれません。

救急車を呼ばれるのが恥ずかしい、病院へ行きたくないという気持ちもあるでしょう。

しかし、熱中症では、最初は話ができていても、その後に状態が悪化することがあります。

本人の「大丈夫」という言葉だけでなく、

  • 受け答えはいつもどおりか
  • まっすぐ歩けるか
  • 自分で水分を飲めるか
  • 症状が改善しているか

を確認してください。

迷ったときには、119番や地域の救急相談窓口へ相談する方法もあります。

春のうちに家族で準備しておく

真夏になってから慌てるのではなく、春のうちに次のことを確認しておきましょう。

  • エアコンが正常に動くか試運転する
  • フィルターを清掃する
  • リモコンの電池を交換する
  • 温度計と湿度計を見える場所に置く
  • 飲料を取りやすい場所へ準備する
  • 家族でエアコンを使う基準を決める
  • 緊急時の連絡先を確認する
  • 離れて暮らす親への連絡方法を決める

熱中症対策は、本人の我慢や注意だけに任せるものではありません。

家族が一緒に確認し、声をかけ、エアコンを使いやすい環境を整えることが大切です。

平凡な一日を守るために

私は救急隊員として、熱中症によって重い状態になった方を何人も搬送しました。

そのなかには、本人も家族も、

「家の中にいたから大丈夫だと思った」

「エアコンをつけていると思っていた」

というケースがありました。

熱中症は、炎天下だけで起きるものではありません。

まだ春だから。

家の中だから。

本人が大丈夫と言っているから。

その思い込みが、対応を遅らせることがあります。

暑くなり始めたら、家族で室温と体調を確認する。

エアコンが実際に動いているか確かめる。

いつもと様子が違えば、早めに対応する。

その小さな備えが、大切な家族の命と、何事もない平凡な一日を守ります。

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