2019年7月5日、島根県安来市で開催された丸永建設株式会社様の安全大会で講演しました。
演題は、「救急現場が教えてくれた安全管理の落とし穴」です。
32年間の消防生活で経験した労働災害や消防活動をもとに、安全な職場をつくるうえで欠かせないチームワーク、日頃のコミュニケーション、ミスが起きたときの向き合い方についてお話ししました。
誰もが安全を願っているのに、なぜ事故は起きるのか

仕事をしていて、
「事故が起きても構わない」
と思っている人はいないでしょう。
建設現場でも、製造現場でも、消防の災害現場でも、誰もが安全に仕事を終えたいと願っています。
それでも、起こるはずがないと思っていた事故が、現実に起きることがあります。
私は消防士として、救急隊員、救助隊員、消防隊員の立場で、さまざまな労働災害へ出動しました。
事故現場では、負傷された方の応急処置や救助活動にあたります。
勤務していたのが地方の小さな消防本部だったため、現場の関係者が顔見知りだったことや、後日、負傷された方や関係者から当時の状況を聞くこともありました。
その経験を通して感じたのは、事故は一人の不注意だけで起きるとは限らないということです。
設備、作業手順、人員配置、疲労、情報共有、職場の雰囲気など、複数の要因が重なっている場合があります。
そのなかでも、この日の講演では、職場の人間関係とチームワークに焦点を当てました。
厳しい叱責が続いた消防職場で起きたこと

消防では、機材の破損や紛失、活動上のミスがあれば、原因を確認し、再発防止策を考えます。
命に関わる仕事ですから、必要な注意や指導を曖昧にすることはできません。
しかし、私が勤務していた頃、ミスをした職員を厳しく責め続けるような雰囲気になった時期がありました。
一つのミスに対する叱責が長く続き、個人そのものを責めるような言葉が加わると、周囲の職員まで萎縮します。
「余計なことをして、自分まで責められたくない」
「自分の担当以外には、なるべく手を出さないようにしよう」
そうした空気が職場に広がり、普段は明るく話していた職員同士の会話も少なくなっていきました。
その時期に、機材の紛失や破損が重なることがありました。
叱責と一つ一つの出来事との因果関係を断定することはできません。
それでも、ミスを防ぐための厳しい指導が、かえって報告や相談、助け合いを難しくしていないかを考える必要があると感じました。
最低限の確認だけでは守れない現場がある
消防の災害現場は、状況が刻々と変わります。
同じ火災、同じ救助現場は一つとしてありません。すべての状況を事前に想定し、マニュアルに書くこともできません。
決められた手順を守ることは、安全活動の基本です。
しかし、現場では、マニュアルどおりの最低限の確認だけでは足りないことがあります。
一人の隊員からは見えない場所を別の隊員が確認し、危険を感じたら声をかける。状況が変化すれば、その情報をすぐに伝える。
そのような、手順に加えた一言や相互確認が必要です。
職場の関係がぎくしゃくしていた時期、現場活動中に小さな事故が起きたことがありました。
幸い大きな事故には至りませんでしたが、状況が少し違えば、命に関わる事態になった可能性もありました。
事故の原因を人間関係だけに求めることはできません。
しかし、日頃なら交わしていたはずの声かけや、互いを補う行動が十分だったかを振り返り、普段のチームワークが現場の安全にもつながっていることを、改めて考えさせられました。
ミスを責めるだけでは安全な職場にならない
ミスが起きたとき、何も言わずに済ませるわけにはいきません。
何が起きたのかを確認し、必要な指導を行い、同じことが繰り返されない仕組みをつくる必要があります。
ただし、検証の目的は、誰か一人を悪者にすることではありません。
個人を責めることが目的になると、
- ミスを報告しなくなる
- 分からないことを質問しなくなる
- 異変に気づいても発言しなくなる
- 自分の担当以外には関わらなくなる
といった状況が生まれる可能性があります。
必要なのは、
「誰が悪かったのか」
だけを追及することではなく、
「なぜその行動になったのか」
「設備や手順に問題はなかったか」
「周囲が気づける仕組みはあったか」
「同じ状況でも事故を防げる方法はないか」
と考えることです。
ミスを責める職場で起きる問題や、失敗を次の安全へ生かす方法については、次の記事で詳しく書いています。
ミスを責めない職場が事故を防ぐ|元消防士が考える安全な職場の作り方
日頃の会話が緊急時の声かけを支える
建設業と消防では、仕事内容は異なります。
一方で、危険を伴う現場で複数の人が協力し、互いの安全を確認しながら働く点には共通するものがあります。
現場で的確に声をかけ合うためには、普段からの関係づくりも大切です。
朝の挨拶、休憩時間の何気ない会話、作業前の短い確認。
一つ一つは小さなことですが、そうした積み重ねによって、
「今日はいつもと様子が違う」
「この作業は少し危ないのではないか」
「もう一度確認したほうがよい」
と気づいたときに、言葉を伝えやすくなります。
普段ほとんど会話をしない相手から、緊急時に突然強い口調で指示されれば、相手は責められていると感じ、動きがぎこちなくなることもあります。
反対に、日頃から互いの仕事や人柄を知っていれば、同じ強い言葉でも「危険から守るための声」だと受け止めやすくなります。
安全な職場は、設備やマニュアルだけでつくられるものではありません。
必要なことを必要なときに言える関係も、安全を支える大切な土台です。
笑顔のある安全大会を目指して

安全大会では、労働災害や事故防止など、重いテーマを扱います。
正しい知識や手順を学ぶことは欠かせませんが、硬い話が長く続くと、聞く側の集中力が途切れてしまうこともあります。
私は消防・救急現場の体験をそのままお話しするだけでなく、身近な話や穏やかな笑い、オリジナルソングの弾き語りも交えています。
事故の怖さだけを伝えるのではなく、自分自身や同僚、帰りを待っている家族のことを思い、安全を自分の問題として考えていただきたいからです。
この日の安全大会でも、真剣な場面ではしっかり耳を傾けていただきながら、笑顔も見られる時間となりました。
緊張感と笑顔の両方があることも、安全について考える時間には大切だと思っています。
開催概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 行事 | 丸永建設株式会社安全大会 |
| 日時 | 2019年7月5日(金) |
| 演題 | 救急現場が教えてくれた安全管理の落とし穴 |
| 会場 | 島根県安来市・安来市学習訓練センター |
| 主催 | 丸永建設株式会社 |
安全大会・労働衛生大会の講演について
私は32年間の消防・救急現場での経験をもとに、安全大会や労働衛生大会で講演しています。
労働災害、職場のチームワーク、ミスの報告、慣れと過信、心身の健康、無事に家へ帰ることの大切さなどを、実際の現場体験とオリジナルソングの弾き語りを交えてお伝えします。
事故の怖さを伝えるだけでなく、参加された皆さんが、自分の職場で明日からできることを考えられる時間を目指しています。
安全大会、労働衛生大会、企業研修などを企画されている方は、講演案内をご覧ください。

