建設業では、今も多くの尊い命が労働災害によって失われています。
2025年に建設業で亡くなった方は214人。そのうち91人、42.5%が「墜落・転落」によるものでした。
2026年7月2日、岡山県新見市の杉岡建設株式会社様の安全大会で、「心の健康づくりで災害ゼロに」というテーマでお話ししました。
消防・救急現場で見てきた墜落事故、事故直後に気をつけたいこと、そして睡眠不足やストレスが安全に及ぼす影響。知識だけで終わらせず、「今日も無事に家へ帰る」という安全の原点を、オリジナルソングも交えてお伝えしました。
このご依頼は、前年に岡山県高梁市で開かれた「備北地区ゼロ災運動研究集会」で講演したことがご縁となり、つながったものです。
ひとつの講演が、また次の出会いを連れてきてくれる。そのことを、あらためてありがたく感じています。
建設業の死亡災害、4割超が「墜落・転落」

まず、安全大会で皆さんにお伝えした数字があります。
厚生労働省が公表した2025年の労働災害発生状況では、建設業の死亡者数は214人で、業種別では最も多くなっています。
そのうち、墜落・転落による死亡者は91人。建設業の死亡災害の42.5%を占めています。
単純に日数で割れば、建設業ではおよそ1.7日に1人が労働災害で亡くなった計算になります。
数字だけを見ると、遠い出来事のように感じるかもしれません。
しかし、その一人ひとりに、いつものように帰りを待つ家族がいたはずです。そのことを思うと、私は消防・救急現場で出会った方々の姿を思い出します。
消防・救急現場で見てきた墜落事故

私は消防士として勤務した32年間、救急隊員、救助隊員として、数多くの労災事故に出動しました。
建設現場では、次のような墜落・転落事故がありました。
- 屋根で作業中の墜落
- 建築中の足場からの墜落
- 屋上の補修作業中の墜落
高いところから落ちる事故は、大きな力が身体に加わる「高エネルギー事故」です。
本人の意識があり、「大丈夫だ」と話していても、外からはわかりにくい損傷を負っている可能性があります。
だからこそ、周囲の人が慌てて抱き起こしたり、歩かせたりしないことが大切です。
「墜落した人を、慌てて動かさない

私が新人の消防士だった頃は、救急現場でも「できるだけ早く病院へ搬送する」ことが強く意識されていました。
その後、救急活動では、強い衝撃を受けた傷病者の頸部や腰部を適切に保護し、必要な観察と処置をしながら搬送することが重視されるようになりました。
一般の方が建設現場で墜落事故に遭遇したときも、まず必要なのは119番通報です。
上から物が落ちてくる、火災が迫っている、交通の危険があるなど、その場にとどまることで命に関わる場合を除き、傷病者をむやみに動かさないようにします。
ただし、呼吸がないなど直ちに救命処置が必要な場合は、119番の指令員の指示に従ってください。
現場の安全、呼吸の有無、傷病者の状態によって必要な対応は変わります。
「早く助けたい」という気持ちは、痛いほどわかります。
だからこそ、慌てて自己判断せず、119番通報をして、指令員の案内を受けながら行動することが大切です。
経験がある人ほど「慣れ」と「過信」に気をつける

安全の話をするとき、私は2020年に静岡県吉田町の工場で起きた火災を思い出します。
この火災では、消火活動にあたっていた消防隊員3人と警察官1人が亡くなりました。
同じ消防の仲間が現場から帰ってこられなかったことは、私にとっても重い出来事でした。
災害現場は、一つとして同じものがありません。
経験を積むことは大切ですが、経験があるからこそ「これくらいなら大丈夫だろう」という気持ちが入り込むこともあります。
これは消防だけの話ではありません。
毎日使っている足場、何度も繰り返してきた作業、いつも通っている場所。
慣れている作業ほど、基本の確認を省かないことが大切です。
慣れを、過信に変えない。
現場で働く皆さんへ、私が繰り返しお伝えしていることです。
睡眠不足やストレスは、安全にも関わる

もう一つ、32年の現場経験を通して感じてきたことがあります。
悩み事で眠れない。心配事が頭から離れない。疲れが抜けない。
そのような状態が続けば、集中力や注意力が低下し、安全確認がおろそかになる可能性があります。
厚生労働省の安全衛生教材でも、慢性的な睡眠不足やストレスによって認知力、集中力、注意力などが低下し、不安全行動や事故につながる流れが示されています。
もちろん、労働災害の原因を個人の心の状態だけに求めることはできません。
設備、作業手順、人員配置、教育など、職場として整えるべき安全対策が土台です。
その土台に加えて、一人ひとりが休めているか、悩みを抱え込んでいないか、仲間の様子がいつもと違わないか。
そこにも目を向けることが、事故を遠ざける一つの力になると私は考えています。
明日から現場でできる5つのこと

講演の最後に、明日からできることとして、次の5つをお伝えしました。
- あいさつに、ひと声を添える
「おはよう。体調はどう?」という言葉が、仲間の「いつもと違う」に気づくきっかけになります。 - 悩みを一人で抱え込まない
解決策がすぐに見つからなくても、誰かに話すことで心が少し軽くなることがあります。 - 慣れた作業ほど、確認を省かない
指差し確認や声かけ確認を、いつもの作業だからこそ丁寧に行います。 - 眠ること、休むことを安全対策の一つにする
疲れや睡眠不足を、本人の気合いだけで乗り切る問題にしないことも大切です。 - 無事に家へ帰ることを、安全の目標にする
今日も帰りを待っている人がいる。その顔を思い浮かべることが、安全確認の意味をもう一度思い出させてくれます。
どれも、特別に難しいことではありません。
しかし、この当たり前を毎日積み重ねることが、災害を一件でも減らすことにつながるのではないでしょうか。
「無事に家へ帰る」までが仕事

講演では、消防時代の体験を語りながら、オリジナルソングも歌いました。
あなたが笑顔で家に帰ることを、待っている人がいます。
その人の顔を思い浮かべるだけで、「今日も安全に」という気持ちは、少し強くなるように思います。
平凡でも、何事もない一日が、どれほどありがたいか。
幸せは、つかむものではなく、気づくもの。
多くの命と向き合ってきた私が、安全大会でお伝えしたいことです。
杉岡建設の皆様、このたびは貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。
私も、帰宅を待つ妻のもとへ無事に帰るまでが講演です。帰り道も安全運転を心がけました。
| 項 目 | 内 容 |
|---|---|
| タイトル | 令和 8年度 杉岡建設株式会社 安全大会 |
| 日 時 | 2026年7月2日(木) |
| 演 題 | 「心の健康づくりで災害ゼロに」 |
| 場 所 | 岡山県新見市 杉岡建設株式会社3階会議室 |
安全大会・労働衛生大会の講演について
私は、建設業や製造業の安全大会、労働衛生大会などで、32年間の消防・救急現場の体験とオリジナルソングを交えながら、「心の健康」と「安全」についてお話ししています。
事故の怖さを伝えるだけではなく、働く人同士の声かけ、慣れと過信、休むことの大切さ、そして無事に家へ帰る意味を、自分事として考えていただける時間を目指しています。

