建設業の死亡災害、4割超は「墜落・転落」|建設会社の安全大会で講演しました

安全大会で公演中の石川達之

先日、岡山県新見市の杉岡建設株式会社様の安全大会で、「心の健康づくりで災害ゼロに」というテーマでお話ししてきました。

じつはこのご依頼は、昨年の岡山県高梁市で開催された「備北地区ゼロ災運動研究集会」でお話しさせていただいたことがご縁でつながったものです。

ひとつの講演が、また次の出会いを連れてきてくれる。そのことを、あらためてありがたく感じています。

今回は建設業界の皆さんが対象でしたので、いつもの「安全」についての内容に、建設現場の「墜落事故」の話を加えてお伝えしました。

目次

建設現場は、今も「危険と隣り合わせ」

建設現場を見守る現場監督

まず、皆さんに知っていただきたい数字があります。

厚生労働省がまとめた令和7年/2025年の労働災害発生状況によると、労働災害で亡くなった方のうち、もっとも多いのが建設業でした。

その数、214人。全産業の死亡者のおよそ3割を、建設業が占めています。

建設業で働く人は、全産業の1割弱。

それなのに、亡くなる方の割合は3割。

いかに危険と隣り合わせの現場かが、この数字からも伝わってきます。

そして、その214人のうち、91人が「墜落・転落」で命を落としています。

建設業の死亡災害の、4割を超えています

計算してみると、建設現場では、およそ1.7日に1人が命を落としている、ということになります。

大きなニュースにはならなくても、私たちの知らないところで、多くの尊い命が失われています。
その一人ひとりに、いつものように帰宅を待っていた家族がいたはずです。

そのことを思うと、胸が締めつけられます。

私が現場で見てきた「墜落事故」

建設現場で墜落した作業員を搬送しようとする救急隊員

私が消防士として勤務していた32年間、救急隊員、救助隊員として、たくさんの労災事故の現場に出動しました。

なかでも建設現場で多かったのが、

  • 屋根で作業中の墜落
  • 建築中の足場からの墜落
  • 屋上の補修作業中の墜落

こうした、高いところからの墜落・転落でした。

高いところから落ちる事故は、私たちの世界では「高エネルギー事故」と呼びます。
高速で走行中の自動車が起こす「交通事故」も同じく「高エネルギー事故」です。

事故当時、たとえ意識があって、本人が「大丈夫だ」と言っていても、内臓や背骨に重い損傷を負っていることが少なくありません。

だからこそ、むやみに身体を動かさないことが、とても大切になります。

「早く運べ」から「固定してから」へ

墜落してケガをした人の頸部を固定する救急隊員

私が新人の消防士だった頃、救急現場の原則は、とにかく早く病院へ搬送しろ! というものでした。

交通事故で強い衝撃を受けた負傷者を、すぐにストレッチャーに載せて救急車に収容していたのです。

しかし、当時は交通事故の重症患者の多くは、手足の麻痺が残ることが少なくなく、社会復帰できた方の割合は、とても低いものでした。

衝突の衝撃で、すでに頚椎(首の骨)や腰椎(腰の骨)を傷めている。そこを固定せずに動かしたことで、傷ついた神経がさらに損なわれてしまう。

そういうことが、起きていたのです。

その反省から、現在では、首や腰をしっかり固定してから収容することが当たり前になりました。

「早く運ぶ」ことよりも、まず「これ以上悪化させない」ことが常識となりました。

むやみに動かさない、という原則

これは、消防や救急の専門家だけの話ではありません。

もし建設現場で、誰かが墜落してしまったら。

上から物が落ちてくるなど、命に関わる危険がある場合を除いて、慌てて動かさないことが原則です。

これは、公的な機関も同じことを呼びかけています。

たとえば横浜市消防局は、傷病者の命に危険がおよぶ状況でない限り、むやみに動かしてはならないと案内しています(頭を両手で支えて動かさないように、とも)。

京都市消防局も、骨折などで変形がある場合は、道路上など危険な場所でない限り、基本的には動かさずに救急車を呼ぶよう呼びかけています。

「早く助けたい」という気持ちは、痛いほどわかります。

でも、良かれと思って動かしたことが、その人の一生を左右してしまうことになります。

まず119番。そして、危険がなければ、そのままの姿勢で救急隊の到着を待つ。

このことを、ぜひ現場の皆さんに知っておいてほしいのです。

参考: ・横浜市「救命処置以外の応急手当」(横浜市消防局) ・京都市消防局「子供の転落編」 ・総務省消防庁「救急隊員及び准救急隊員の行う応急処置等の基準」

「たいしたことない」

その油断や、良かれと思った一手が、取り返しのつかない結果につながることがある。

何度もそういう現場を見てきたからこそ、声を大にしてお伝えしたいのです。

4人が殉職した工場火災から学ぶこと

足に誘導ロープをつけて建物に進入する消防隊員

安全の話をするとき、私にはどうしても伝えたい出来事があります。

2020年、静岡県のある工場で起きた火災です。

消火活動にあたっていた消防隊員3人と警察官1人、あわせて4人が、殉職されました。

同じ消防の仲間が、現場から帰ってこられなかった。

事故のあとの検証で、いくつかのことが指摘されました。

脱出用のロープを身につけていなかったこと。空気呼吸器を、複数の隊員で分け合って使っていたこと。

暗く、煙の充満した中で、出口がわからなくなる。危険を仲間に知らせる合図も送れない。

もちろん、私は現場状況の詳細を知っているわけではありません。
ただ、検証や報道の中で、安全管理上の基本の大切さが、あらためて浮き彫りになりました。
どれほど経験豊富な人でも、どれほど使命感が強くても、基本を一つ失うだけで、命に関わる結果につながることがあります。

そのことが、これほど大きな結果を招いてしまったことは事実です。

もちろん、現場の状況は毎回違います。同じ火災現場、同じ災害現場は、二つとありません。

だからこそ、「慣れ」に注意して、「基本」を忘れない。

身体能力が高く、経験豊富な人ほど、つい危険を冒してしまうことがあります。

過信しないこと。

これは消防だけの話ではなく、あらゆる現場に通じることだと思っています。

事故の背景にある「心の不調」

元気のない建設現場の作業員

もうひとつ、32年の現場で痛感してきたことがあります。

それは、労災事故にも交通事故にも、心の不調が少なからず影響しているということです。

悩み事で眠れず、睡眠不足のまま現場に立つ。

心配事で頭がいっぱいになり、集中力が続かない。

考え事があると、視野が狭くなり、反応も遅れます。

そういう状態のとき、人は自分の感情や行動を、うまくコントロールできなくなります。

つまり——安全は、まず心と身体の健康から始まるのです。

作業環境を整えることも、もちろん大切です。

でもそれと同じくらい、働く一人ひとりの「心の元気」が、事故を防ぐ土台になる。

現場経験を通して、私はそう確信するようになりました。

明日からできること

声をかけあう建設現場の作業員

では、明日から何ができるのか。

講演の最後に、こんなことをお伝えしました。

  • あいさつに、ひと声を添える。「おはよう」「体調どう?」の声かけが、仲間の「いつもと違う」に気づく第一歩になります
  • 悩み事は、一人で抱えない家族や同僚に話すだけで、心はずいぶん軽くなります
  • 「慣れ」と「過信」を手放す。指差し確認、声かけ確認を、面倒がらずに
  • 十分に眠り、休む。運動でも、読書でも、自分に合った方法で心をゆるめる
  • 「命が一番大切」無事に家に帰ることが、職場の繁栄であり、家族の幸せです

どれも、特別なことではありません。

でも、この当たり前を積み重ねることが、災害ゼロへの一番の近道だと思うのです。

無事に、家に帰るために

仕事を終えて帰宅したお父さんを迎える親子

講演では、消防時代の体験を語りながら、オリジナルソングも歌わせていただきました。

あなたが笑顔で家に帰ることを、待っている人がいる。

その人の顔を思い浮かべるだけで、「今日も安全に」という気持ちは、きっと少し強くなります。

平凡でも、何ごともない一日が、どれほど幸せか。

幸せは、つかむものではなく、気づくもの。

現場で多くの命と向き合ってきた私が、心からお伝えしたいことです。

このたびは、貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。

杉岡建設の皆様には、とてもあたたかく迎えていただき、講演終了後もとてもありがたい感想をいただきました。

とても温かい気持ちで帰路につきました。
もちろん、私の無事の帰宅を待っている妻がいるので、安全に留意して運転しました。


私は、建設業や製造業の安全大会労働衛生大会などで、消防・救急現場の体験とオリジナルソングを交えて、「心の健康」と「安全」を結びつけたお話をしています。

「知識」だけでなく、参加者の心が動く時間をお届けできればと思っています。

ご関心をお持ちいただけましたら、どうぞお気軽にお声がけください。

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