「おじいちゃん、おばあちゃんが子育てに口を出して困ってます。どうすればいいんでしょうか?」
子育てや人権参観日の講演後の質疑応答に、ときどきそんな質問があります。
「すごくストレス溜まってるんです」
そうおっしゃる方の表情を見ると、本当に悩んでいることが伝わってきます。
都会から田舎に嫁いで来てとまどっているのに、いろいろ言われると確かにストレスは溜まりますよね。
同居していない家庭でも、同じような悩みは多いはずです。
私自身も、消防士として働きながら3人の子どもを育ててきました。妻の両親、私の両親と、それぞれ価値観が違って、時には戸惑うこともありました。
でも今思えば、祖父母の存在があったからこそ、子どもたちは豊かに育ってくれたと感じています。
なぜ祖父母は口を出すのか
まず、考えてみてください。
おじいちゃん、おばあちゃんは、なぜ子育てに口を出すのでしょうか。
孫が可愛くて仕方がないから です。
孫の幸せを心から願っているからこそ、自分の経験を伝えたくなる。
良かれと思って、アドバイスしているんですね。
ただ、その伝え方が、時代とともに変わった子育ての常識と合わないことがあるのです。
たとえば、祖父母世代が子育てをしていた頃は、「抱き癖がつくから泣いてもすぐに抱っこしない方がいい」と言われていました。
でも今は、「たくさん抱っこして安心感を与えることで、自己肯定感が育つ」と言われています。
お風呂上がりに赤ちゃんに白湯を飲ませるのも、昔は当たり前でしたが、今は母乳やミルクで十分だとされています。
祖父母世代が「常識」だと思っていたことが、実は現代では違うことがたくさんあるんです。
それを知らずに、「こうした方がいい」とアドバイスするから、若い世代との間に摩擦が生まれてしまう。
でも、それは決して悪意からではありません。
世代間ギャップは誰のせいでもない
私が講演でよくお話しするのは、「誰も悪くない」ということです。
祖父母世代は、自分たちが学んできた子育ての知識で、精一杯孫を愛そうとしている。
若い世代は、最新の情報を学びながら、自分たちなりの子育てをしようとしている。
どちらも間違っていません。
ただ、時代が変わったんです。
医学や脳科学の研究が進んで、子育てに関する知識がアップデートされてきました。
そのことを、お互いに理解することが大切です。
私が消防士時代、何度も経験したことがあります。
家族間のトラブルで救急出動したとき、話を聞いてみると、ほとんどがコミュニケーション不足から生まれていました。
お互いに相手のことを思っているのに、その伝え方がうまくいかなくて、すれ違ってしまう。
祖父母と親子の関係も、同じだと思います。
私自身の後悔

実は、私自身も同じ経験があります。
自分が子育て世代だった頃、母親が「こうした方がいいよ」「ああした方がいいよ」と、アドバイスのつもりであれこれ口を出してくることが、とてもうるさく感じられました。
忙しくて余裕がないとき、疲れているときは特に、腹立たしくて仕方がなかった。
「もうかまわないでくれよ!」
そんなふうに強い口調で言ってしまったことが、何度もあります。
母は、黙って引き下がりました。
でも、今になって思い出すのは、あのときの母の寂しそうな顔です。
ただ孫のことが心配で、可愛くて、何かしてあげたかっただけなのに。
母はもう、この世にいません。
あのときの母の顔を思い出すたびに、胸が痛みます。
もっと優しく接することができたのに。
もっと母の気持ちを理解してあげられたのに。
そんな後悔が、今も心に残っています。
今は孫がいるので、あの時の母の気持ちがなおさらよくわかります。
孫の顔を見ると、ついつい何かしてあげたくなる。
子育てについて、自分の経験を伝えたくなる。
それは、孫への愛情からくる自然な気持ちなんだと、今ならわかります。
だからこそ、今、同じように悩んでいるあなたには、私と同じ後悔をしてほしくないんです。
祖父母の力を味方につける

ここで視点を変えてみましょう。
祖父母が口を出してくることを、「邪魔」だと捉えるのではなく、「味方」にできないか、と考えてみるんです。
実は、祖父母の存在は、子育てにとって大きな力になります。
親は、どうしても子どもとの距離が近すぎて、見えないことがあります。
成績のことばかり気になって、子どもの他のいいところが見えなくなることもあります。
そんなとき、祖父母が子どもの別の一面を見て、ほめてくれる。
「あの子は、優しいねえ」
「よく手伝ってくれるねえ」
そんな言葉が、子どもの自己肯定感を育ててくれます。
私自身も、子どものころは荒れていて、素行の悪い問題児でしたが、母方の祖母が愛情を注いでくれたおかげで、なんとかまともに成長することができました。
祖母の存在がなかったら、今頃どんなことになっていたかわかったものではありません。
その頃のことをこちらに書いています。
無条件の愛情は裏切られない
具体的にどう対応すればいいのか
では、実際にどうすればいいのでしょうか。
講演の質疑応答でいただいた質問に、いつも私がお答えしている内容をご紹介します。
感謝の気持ちを伝える
まず大切なのは、感謝の気持ちを伝えること です。
「いつも孫のことを気にかけてくれて、ありがとうございます」
「おじいちゃん、おばあちゃんがいてくれて、本当に助かっています」
この一言があるだけで、祖父母の気持ちは全然違います。
自分たちの存在が認められている、必要とされている、と感じられると、人は嬉しいものです。
子育ての方針を穏やかに伝える
次に、自分たちの子育ての方針を、穏やかに伝える ことです。
ポイントは、「否定しない」ということ。
「昔のやり方は間違っている」と言ってしまうと、祖父母は自分たちの子育てを否定されたように感じてしまいます。
そうではなくて、
「時代が変わって、今はこういうふうに言われているんですよ」
「最近の研究で、こんなことがわかってきたみたいなんです」
というふうに、情報として伝える んです。
たとえば、尾木ママ(尾木直樹先生)がテレビでこんなことをおっしゃっていました。
現代は脳科学が進んでいろんなことが解明されているので、昔の子育ての常識とは大きく変化しています。
おじいちゃん・おばあちゃんは口を出さないで、後方支援してください。
「テレビで尾木ママがこう言ってましたよ」と、第三者の意見として伝えると、受け入れてもらいやすくなることがあります。
協力者になってもらう
そして、祖父母を 「協力者」 として巻き込んでいくんです。
「最近、虫歯が心配になってきて、お風呂の後は水と麦茶だけにしようね、と子どもと約束したんです。協力お願いします!」
このように、子どもとの約束を守らせるために、祖父母に協力をお願いする形にする。
すると、祖父母も「お約束はなんだったかな?」「ママやパパに聞いてからね」と、親の方針を尊重してくれるようになります。
「我が家の枠組み」を決める
また、「ここまではOKだけど、ここからは絶対にダメ」という枠組み を家族で決めておくことも大切です。
たとえば、「ゲームは禁止」という枠組みがあれば、祖父母がゲームをプレゼントしようとしても、子ども自身が「うちはダメなんだ」と説明できるようになります。
枠組みを理解した子どもは、柔軟に対応する力も身につけていきます。
タイミングと伝え方を工夫する
祖父母に何かをお願いするときは、タイミングと伝え方が大切 です。
角が立たないように、相手を責めることにならないように、伝える時を見計らう。
孫が帰った後の落ち着いた時間に、一対一でゆっくり話す。
そんな配慮も、円滑なコミュニケーションには欠かせません。
親を大切にするところを子どもに見せる
私が講演でいつもお話しすることがあります。
それは、親を大切にするところを、しっかりと子どもたちに見せる ということです。
「友達と仲良くしなさい」
「差別したり、いじめたり、絶対してはいけませんよ」
そんなふうに日頃から教えているのに、おじいちゃんおばあちゃんと激しく口論して、陰で悪口を言っていたのでは、親としての信用を失ってしまいます。
もちろん、お互いに人間ですから、カッとなることもあると思います。
そんなときのために、ぜひ 「アンガーマネジメント」 を学ばれることをおすすめします。
怒りをコントロールできるようになれば、何より子育てでのイライラを爆発させることが少なくなり、子どもにもいい影響を与えることになります。
冷静におじいちゃん、おばあちゃんと話しあうことが、いい結果につながります。
親を大切にするところを見せることが、学校では教わることのできない大切なことを教えることになります。
子どもが成長していく過程で、その成果を見せてくれることになるはずです。
おじいちゃんおばあちゃんの役割
祖父母には、親とは違う役割があります。
親は、子どもの 「未来」 を見据えて、しつけや教育をしなければなりません。
でも、祖父母は 「今」 を受け止める安らぎの場でいい。
親ほどの責任を負わなくていいからこそ、無償の愛を注ぐことができる。
それが、子どもの情緒を安定させ、自己肯定感を育てます。
ときどき孫の子守をしてもらったり、分からないことを教えてもらったり。
昔ながらの遊びや、童謡、わらべ歌を教えてもらったり。
そんな 後方支援 の形で、孫育ての時間をプレゼントしてあげましょう。
祖父母の甘やかしとどう向き合うか
「でも、おじいちゃんおばあちゃんが甘やかしすぎるのが心配です」
そんな声もよく聞きます。
たしかに、何でも買い与えたり、わがままを全部聞いたりすると、子どもに悪い影響が出ることもあります。
でも、ここで考えてほしいのは、祖父母が孫を可愛がるのは、生きがい だということです。
自分たちが必死に子育てしていた時代には、時間もお金も余裕がなくて、できなかった愛情表現。
それを今、孫にしてあげたいんです。
ですから、多少の甘やかしは大目に見る 。
それくらいの心の余裕を持ってもいいのではないでしょうか。
ただし、「我が家の枠組み」からはずれることは、きちんと子ども自身にも「ダメ」だと伝える。
一貫した姿勢を保つことで、子どもも混乱しません。
あなたにも、同じ日が来る
最後に、こんなことを考えてみてください。
あなたも、いつか祖父母になる日が来ます。
そのとき、自分の子どもたちが子育てをしているのを見て、何も言いたくないでしょうか。
きっと、自分の経験を伝えたくなるはずです。
「こうした方がいいよ」って、言いたくなるはずです。
そのときに、「お母さん、時代が違うから黙っててください」と言われたら、どんな気持ちになるでしょうか。
今、祖父母が感じている気持ちを、想像してみてください。
そう考えると、少し優しくなれるかもしれません。
これは、私自身の反省を込めています。
まとめ
おじいちゃんおばあちゃんをリスペクトしながら、自分たち親の子育て方針を見守ってください、と伝える。
自分たちも親として成長していきたいので、試行錯誤することもあるけど、まずはまかせてください、とお願いする。
自分たちに分からないことは教えてください、と頼る。
人は頼られ、必要とされると嬉しいものです。
子どもには、お父さんお母さんも、おじいちゃんおばあちゃんも、みんなあなたのことが大好きなんだよ、と伝える。
イラっとしたらアンガーマネジメント。
そして最後にもうひとつ。
おじいちゃんおばあちゃんが、孫を多少甘やかしても大目にみる。
孫を可愛がるのは、じいちゃんばあちゃんの生きがいです。
親には甘やかしているように見えても、じいちゃんばあちゃんにとっては、自分たちが必死に子育てしていた時代にはできなかった形の愛情表現でもあるのです。
ぜひとも、じいちゃんばあちゃんに孫育ての醍醐味を与えてあげてください。
世代を超えた愛情が、子どもを豊かに育てます。
対立するのではなく、協力しあう。
それが、子どもにとって一番幸せな環境だと、私は思います。
私の講演では、家族の絆や感謝の気持ちについて、オリジナルソングを歌っています。
言葉だけでは伝えきれない思いを、メロディーに乗せて。
たとえば「今が最高」という歌では、

いつか私も歳とり おばあちゃんになったら あの子みたいに可愛い 孫の子守がしたいわ
子どものことを思う親の気持ちを素直に歌詞にしています。
「ありがとう」という言葉の大切さを、歌を通じて感じていただけたらと思っています。
もし、皆さんの地域や学校、PTA、企業で講演の機会をいただけるなら、ぜひお声がけください。
子育てに悩むお父さん、お母さん、そしておじいちゃん、おばあちゃんの心に寄り添う時間を、ご一緒できたら嬉しいです。