救急現場から学んだ「折れない心」の育て方

西宮市立大社中学校での講演風景
目次

元消防士として伝えたいこと ― 先生方の重圧への共感

2025年8月25日、私は西宮市立大社中学校にて、市立小中学校の先生方を対象とした講演会に登壇させていただきました。

この日は午前9時30分に講演が始まり、90分間の講演の後、グループに分かれての対話の時間、そして質疑応答というプログラムでした。
大社中学校の皆様に加え、市内の小学校の職員の方々、総勢約150名もの先生方がご参加くださいました。

リハーサル中には音響設備にトラブルが発生し、何が原因かと思案していたところ、何人もの先生方が心配してくださり、様々な方法を試して解決に尽力してくださいました。
また、講演中にもプロジェクターにトラブルがあったのですが、それも数人の先生方がすぐに対応され、事なきを得ました。多くの先生方が自発的に協力してくださったことに感動しました。

今回の演題「救急現場が教えてくれた『折れない心』の育て方 ~命を支える言葉の力~」は、日々子どもたちの成長を支え、私には計り知れないほど大きな責任を担っておられる先生方に、消防士時代の経験を通して「心の元気」をお届けしたいという思いから設定しました。

近年、教員の皆様は、多様なしんどさを抱える生徒への支援や、サポートルームの運営方法など、多岐にわたる課題に日々向き合っていらっしゃると伺っていました。
SNSの普及や教員の立場の変化、人員不足といった背景も相まって、ひと昔まえとは異なる重圧の中でご尽力されている中堅層、ベテラン層の先生方も少なくないと聞いていました。

私自身、32年間消防士として地方公務員の職にありましたので、市民の方々からの心ないヤジや誹謗中傷を浴びることもあり、傷つき、無力感にさいなまれることもありました。

先生方も、一生懸命に指導しても、報われないことや、努力が正当に評価されないこと、時には理不尽な批判を受けることもあるかと思います。そうした中で日々の業務の中で感じていらっしゃるであろうストレスや重圧に対し、深い共感を抱いています。

心を守る第一歩は「やりがい」と「喜び」に目を向ける

談笑する先生と小学生

この講演では、「ヤジや誹謗中傷に心を奪われず、助けた命、家族からの感謝の言葉、活動したという誇り、この仕事の『やりがい』や『喜び』に意識的に目を向けることで、ストレスが蓄積されないようにつとめてきました」というお話をさせていただきましたが、職種は違えど、先生方も同じなのではないかと考えていました。

生徒や保護者から感謝の言葉をもらった経験や、生徒が自分の目標に向かって努力し成長していく姿に立ち会えた時の充実感、学校生活の中で感じる小さな喜びや達成感など、つらい時こそ日々の中にあるプラスの出来事にも意識的に目を向けていただくことが、先生方の心を守る上での重要な鍵となります。

命と向き合う職業の重圧と心を軽くする工夫

教室から窓外を笑顔で眺める女性教師

消防士が救急現場で命を救えなかった時、「あの時、ああすべきだったのではないか」と自問自答をくり返し、その苦しみにとらわれることがあります。
先生方もまた、病気などで生徒の尊い命が失われた時、同様の深い悲しみと自責の念にさいなまれることがあるかもしれません。
生徒一人ひとりの人生や未来に大きな影響を与える職業だからこそ、その責任感と重圧は計り知れないものがあると感じています。

そのようなストレスを抱え込んだ時に、心が疲弊しないためにも、日々の生活の中で意識的にリフレッシュする時間を持つことが大切です。

例えば、授業や業務の合間に深呼吸をしたり、窓の外の景色を眺めて気分転換を図る、同僚の先生と会話を交わして気持ちを共有する、といった小さな工夫が心の余裕を生み出します。

また、放課後や休日には、趣味や好きなことに時間を使うことで、仕事以外の自分を大切にすることもストレス解消に繋がります。日々の忙しさの中でも、意識的に自分の心と体を労わる時間を持つことが、長く健やかに働き続けるための土台となります。

救急現場で気づいた「感謝」の絶大な力

西宮市立大社中学校での講演で歌う石川

今回の講演では、私自身が現場で経験したエピソードをいくつかご紹介しました。

ひとつは、救急現場でバイク事故に遭った青年に心肺蘇生法を実施しようとしたときの出来事です。

呼吸停止していた彼の革ジャンの胸元には、母親が息子のために手作りしたお弁当が大切に入れられていました。
救急搬送中、心臓マッサージをしながらそのお弁当のことを思い出していた私は、「生んでくれてありがとう」と自分の母に伝えたくなり、実際に感謝の言葉を伝えました。
この経験は、母の死後も私の心の支えとなり、感謝の気持ちを言葉にすることの大切さを改めて実感させてくれました。
詳しくは「『生んでくれてありがとう』と伝えたくなったきっかけは交通事故」をご参照ください

もうひとつは、救急隊員時代に中学生の男の子が交通事故で亡くなった現場に立ち会った経験です。

その出来事を通して、「自分は、あの子が生きられなかった今日を生きている」という事実に気づき、日々を大切に生きること、そして今ある命や日常に感謝することの大切さを強く感じました。
「あの子が生きられなかった今日を僕たちは生きている」をご参照ください

当たり前だと感じている日常の中に感謝できることを見つけ、「ありがとう」と伝えることで、自分だけでなく周りの人々も幸福感に包まれます。

自分を認め、心を解放するための3つのヒント

小学校の職員会議風景

そして、「完璧を目指さず自分の全てを認める」ことも重要です。

私たちは誰も完璧ではありません。長所だけでなく短所も受け入れ、6割、7割できたら成功と捉える柔軟な心を持つことで、不必要なプレッシャーから解放されます。

感情そのものには良いも悪いもありません。「ネガティブな感情を認める」ことも、心を健康に保つ上で非常に大切です。怒りや悲しみ、不安といった感情も、それが自分の一部であると認め、その上でどう対処するかを考えることで、自己認識を深め、前向きな行動へと繋げることができます。

さらに、トラウマ級のつらい体験をされた場合、ご自身の感情を信頼できる人に「言葉にして伝える」ことは、心の整理をする上で非常に有効です。
もし身近に話しにくい場合は、日記などに書き出すことも助けとなります。

また、心理学的にも大きな効果があるとされているのが、家族や友人など親しい人と一緒に時間を過ごすことです。
親しい人と過ごすことで、心の傷が癒やされることが多くの研究で証明されています。

かつて私自身も、メンタルが壊れそうになったときに、当時まだ幼かった二人の息子たちと一緒に出かけては、泥んこになって遊んでいるうちに回復した経験があります。
そんな経験を元にして作った歌も聞いていただきました。

これからも「心の元気」を届けるために

中学校の授業風景

今回の講演が、先生方がご自身の心を振り返り、ふっと肩の力を抜くささやかなきっかけとなったのであれば、とても嬉しいです。

先生方が抱えるプレッシャーに社会全体が理解を寄せ、支え合う輪が広がることこそ、私の願いです。
とても微力ではありますが、これからも「心の元気講演家」として、私にできることを実直に続けていきたいと強く思った講演になりました。

項 目内 容
演 題救急現場が教えてくれた「折れない心」の育て方
~命を支える言葉の力~
日 時2025/8/25(月)
場 所兵庫県西宮市 西宮市立大社中学校
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