子どもが中学くらいになるとだんだん生意気になってきて、親になんでも話してくれていた小学生の頃とは違ってきます。 可愛いには違いないんですが、少し距離ができてきます。
子どもには子どもの悩みがあり、親には親の事情があり、微妙な行き違いも増えてきます。
子どもが生まれてきてくれたときの奇跡のような喜びも、日常生活を送るうちに当たり前に感じるようになってきます。
数年前、ある中学校の保護者会での講演会で、講演終了後に保護者さん達と輪になって座談会をやりました。
そのとき、「講演を聞いて、子どもが生まれてきたときの喜びを思い出しました。これからは関わり方を変えていこうと思った」と涙ながらに語られたお父さんのことをお話したいと思います。
事前打ち合わせで聞いた親の思い
私は、人権講演会でよく小学校から高校までの生徒にお話する機会があります。
また、生徒だけではなく、保護者対象の人権講演会や子育て講演会の講師を務める機会もあります。
講演会の担当者(だいたい保護者会長さんか人権担当役員さん)と事前に打ち合わせるすることもあるのですが、担当者だけではなく保護者会役員と事前に打ち合わせがしたいといわれたことがあります。
その打ち合わせ会で、役員の方々がお子さんとの関わりについて順番に話すことになりました。
「小学生のときは、学校であったことなど、何でもよく話してくれたのに、今はだんだん話してくれなくなりました」とか、
「反抗期みたいで、なにか言うと口答えしてするようになって、寂しいです」とか、
親子の会話が少なくなって寂しいという方の意見が続いたあとに、
「うちは中学3年になる息子がいますが、普通に話して来ますが、その内容がくだらんことばかりで、何をしょうもないことに悩んでるんだと思ってしまって、相手にしないことが多いです」
と話されたお父さんがいました。
その場でお伝えしたいこともあったのですが、そのメッセージは当日の講演会にお伝えしようと思い、お話をじっくり聞かせていただきました。
息子が生まれて大喜びしたことを忘れていました
当日は、私の講演では定番ですが、テーマに沿ったオリジナルソングを交えながら消防士時代に体験した現場の話をしました。
その日は、私の2人の息子がまだ保育園児だったころに、同じような年頃の兄弟が乗っていた自動車が交通事故にあい、即死してしまった小さい弟と、意識が無くなって重体のお兄ちゃんとお母さんを、3人の救急隊員が涙を流しながら病院へ搬送した話をしました。
こちらにその時のことを書いています。
生きていることの輝き
講演会場は、シーンとなって参加されたみなさんが子を持つ親として、すごく感情移入して聞いてくださっているのが、体育館のステージ上で話していてすごく伝わってきました。
講演が終わると、第二部があり、参加可能な保護者さんと講演者である私との座談会ということになりました。
会場の体育館に丸くなるように、残った30人くらいの保護者さんはパイプ椅子を移動して座りました。
「今日の講演の感想を話し合いましょう」
と先生が進行されるのですが、保護者の皆さんは、「座談会があるなんて聞いてなかったよ」というような気配で、私や司会の先生と目が合わないように顔を伏せてる感じでした。
たまにありますよね、そんなシーンとした気まずいムードの会が。
私は司会進行ではないのですが、思わず口を開きました。
「どうですか、皆さんのご家庭では『ありがとうを言い合うことはありますか?』」とたずねました。
と言いますのは、講演の中で、私が幼かった息子たちの誕生日に「生まれてくれてありがとう」という言葉を伝えたという話をしたからなんです。
そう言うと、真っ先に手を挙げられたのが、事前の役員打ち合わせ会で、
「3年生の息子が話してくる内容がくだらんことばかりで」と言っていたお父さんでした。
立ち上がって話し始めましたが、
「先生、今日はありがとうございました。今日の先生のお話を聞いていて・・・」
と、そこまで話して、涙がこみ上げてくるのを我慢されていました。
「うちの息子が生まれる前のことを思い出しました。
息子がまだ妻のお腹にいるとき、産科の先生から、死産になるかもしれないと告げられました。
次の検診に行くと、たとえ生まれてもまともに育たないだろうと言われました。
その次の月に行くと、たとえ生まれても重い障害が残るだろうと宣告されました。
生まれるまでの数ヶ月、毎日毎日重たい気持ちで過ごしました。
毎日毎日、なんとか無事に産まれてくれと、祈りながら過ごしました。
あんなに苦しかったことはありませんでした。
それでも無事に産まれ、障害もなく、今まで大きな病気もすることなく3年生にまで成長してくれました。
息子が生まれたとき、あんなに大喜びしたことを、いつの間にか自分は忘れて、息子が元気に毎日を過ごしていることを当たり前だと思うようになり、悩みごとを口にする息子の相手をしてやっていませんでした。
今日の講演を聞きながら、当時のことを思い出すことができました。
これからはちゃんと息子の言うことに耳を傾けて、真剣に聞いてやろうと思いました。
息子が元気に生まれてきたくれたことへの感謝を忘れないようにしたいと思いました。本当にありがとうございました」
嗚咽まじりに話してくださいました。
その場にいた保護者全員と先生方と私、全員が涙を拭いていました。
子どもが何歳になろうと子育てを楽しみましょう
そのお父さんが話したあとは次々に手が上がりました。
「うちの娘は、小学生の時と変わらずに、よく話してくれます。それが普通だと思っていましたが、嬉しいことだと思いました」
と話してくれたお母さんがいました。
「うちは、娘が小さい時に病気で妻が亡くなったんですが、ほんとうは寂しい思いをいっぱいしていたはずなのに、寂しいなんて言わずに、いつも元気に明るく振る舞ってくれています。
今日の講演の中にあったように、宝物のような今の時間を大切にして毎日を過ごしたいと思いました」
そう話してくれたお父さんいました。
最初は、誰も発言する人がいないんじゃないかなんて心配しましたが、途中から終わる時間が来るのが残念なムードになり、体育館の中が、とてもあったかい場所になりました。
いつも一緒にいると、とても大切な存在なのに、ついつい面倒臭がってじっくりと話を聞かなくなり、照れくさくて愛情を表現しなくなりがちです。
子どもはいつかは大人になっていきます。
大人になってしまってから振り返ってみれば、あんなに育て方に悩んだり迷ったり心配したりしていた日々が、一瞬に感じられます。
大変だったことも、楽しかったことも、忘れずにときどきは思い出して、しっかりと子どもに向き合って、子育てを楽しみましょう。