「生きていてよかった」と泣いた夫婦【命の講演会で話すこと】

海の波打ち際の画像

「生きていてよかった!」

救急車の中で、そう泣き叫ぶ夫婦を目の当たりにした時、私の心にも熱いものが込み上げてきました。

消防士として数々の現場に立ち会ってきましたが、あの日の光景は今も脳裏に焼き付いて離れません。

その時のエピソードを、自殺予防講演会や中学生、高校生を対象にした人権講演会で話しています。

何があっても一番たいせつなのは「命」。
自分の命をたいせつにすることが、自分を認め、他人への思いやりを育んでいくものだと信じています。

私が救急隊員として自損行為の現場に実際に出動した時のエピソードをお話します。

目次

「いなくなりたい」と思うことだってある

悩む若い女性

「死にたい」

その言葉を口にする人もたくさんいて、それぞれ理由・原因・動機も違っていると思います。

10代の頃には、少なからず死への憧れや、自殺を美化する感情もあるとは思います。

自分自身で処理しきれないほどの苦しみや寂しさを抱えて、
「いなくなりたい」
と思うことだってあるかもしれません。

痛いのは嫌だ。汚い死に方は嫌だ。ポンと楽に死にたい。
そんなふうに思う人も多いのかもしれません。

生きていてよかった!

救急車にストレッチャーを収容する画像

あなたに質問です。

「死にたい」と思ったことはありますか?

きっと、誰もが一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

私も、純文学にかぶれていた10代の頃は漠然とした死への憧れを抱いていた時期がありました。

しかし、消防士として様々な現場に出動した中で、危険な現場を切り抜けて「生きていてよかった」と心の底から思えた瞬間を経験したり、一命を取りとめ喜ぶ人たちの姿を見たりして、生きることの尊さを体感してきました。

中学生や高校生に、命のスゴサ、生きようとする力のスゴサを、消防現場のエピソードを交えてなんとか伝えようという思いで講演をしています。

それでもあまりショックを与えてはいけないと思い、具体的な描写はしないようにしています。

今までは「自殺」についても、あまり多く話さなかったのですが、こんな事件があったので、あえてしっかりと伝えたいと思うようになりました。

たくさんの自尊行為の現場に出動してきた経験から、きれいで楽そうな死に方なんてないんだよ、と伝えています。

ずいぶん前に、自動車の排ガスの自損行為で出動したことがあります。

県外からそれを目的にやってきた夫婦でした。
幸い、通行人の通報が早くて、どちらも助かりました。

意識のあった女性は、意識を失った男性にしがみついて泣いていましたが、朦朧としていたものの男性が意識を取り戻しました。

女性は、号泣しながら男性の身体を抱きしめてくり返し言っていました。

「よかった! 本当によかった! 生きていてよかった!」

よく言われるように、自殺をしようとして一命をとりとめた人の多くが、「なんで死のうと思ったんだろう」と後悔されます。

もちろん、人それぞれ深い悩みや苦しみから、死を選択しようとしたり、感情のコントロールができなくなって衝動的に行ってしまう場合もあるでしょう。

悩みを一人で抱えてしまった場合、よけいにその危険性は増します。
張り詰めた気持ちの状態が継続しないように、少しでも緊張を緩めるためにも誰かに話したり、愚痴をこぼすことも大切です。
こちらのブログにもその事を書いています。
「心が疲れたときに必要なのは弱音と愚痴」

私の友人の自殺未遂経験者も、
「自殺して自分を殺そうなんて気持ちではなかった。生きなおしてもっとよりよく生きたいと思った」
と言っていました。

君は大切な存在なんだ!

若い親子が笑顔で楽しそうに話す画像

「あの時、誰かに話を聞いてもらえていたら…」 自殺者の多くは、そう思っているのではないか、私はそんな思いを持っています。

大切な家族を失って泣きじゃくる家族の姿を、何度も見てきました。

心拍の戻らない家族に、呼びかけ、叫び、身体を揺すぶっている様子は、救急隊員も強い心の痛みを感じます。
そして亡くなった人が抱えていたであろう孤独に、胸が締め付けられる思いでした。

きっと本人ではなければわからない苦しさや悩みがあったのだろうと思います。
悩みや不安やで心がいっぱいになり、苦しくて大切な存在のことも見えなくなったのかもしれません。

寂しさや生きづらさを抱えている人はたくさんいます。
誰かに話を聞いてもらいたいと思っても、共感してくれる人がいない人もいます。
家族と一緒に暮らしていても、子どもの話を聞いてあげない親もいます。
子どもの悩みを、「馬鹿げたことを」と取り合わない親もいます。

自分自身が思春期だった頃に、子どもと同じようにいろんな事に悩んでいたことを思い出さない親もいます。

日本財団自殺意識調査2017の中に、「自殺の抑制要因(自殺のリスクを抑える要因)」についての記述がありました。

・家族に居場所がある
(家族の中での「自己有用感」が高い)

・人間同士は理解や共感ができると考えている
(「共感力」がある)

最後に、この記事を読んでいるあなたへ。 もし今、あなたが辛い気持ちを抱えているのなら、どうか一人で抱え込まず、誰かに相談してください。 家族、友人、学校の先生、誰でもいいのです。話すことで気持ちが楽になることもあります。 あなたの命は、あなただけのものではありません。 あなたの周りには、あなたを必要としている人が必ずいます。どうか、「生きていてよかった」と心から思える未来を掴み取って下さい。 そして、もしあなたの大切な人が悩んでいることに気づいたら、どうか寄り添い、話を聞いてあげてください。あなたの温かい言葉が、その人の生きる希望になるかもしれません。

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あなたの周りには、あなたを必要としている人が必ずいます。どうか、「生きていてよかった」と心から思える未来を掴み取って下さい。 そして、もしあなたの大切な人が悩んでいることに気づいたら、どうか寄り添い、話を聞いてあげてください。あなたの温かい言葉が、その人の生きる希望になるかもしれません。

「どうせ話してもちゃんととりあってくれないんだ」
と、どんどん共感力を失う言葉を発したり、そんな態度をとっていないか、ふだんから振り返ってみることも大切だと思いました。

何事もない日々の暮らしの中で、大切な人に、
「ちゃんと居場所があるんだよ」
「君は大切な存在なんだ」

と伝えていきましょう。

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