中学生の話を「くだらない」と聞き流していた父親|我が子よ、生まれてくれてありがとう

中学校保護社会で歌う石川達之

「うちは中学3年になる息子がいます。普通に話しかけてきますが、その内容がくだらないことばかりで……。何をしょうもないことで悩んでいるんだと思って、相手にしないことが多いです」

ある中学校の保護者会で講演をする前に、役員の皆さんと打ち合わせをしたときのことです。

一人のお父さんが、息子さんとの関わりについて、そう話してくださいました。

ところが講演後、そのお父さんは涙を流しながら、

「これからは、ちゃんと息子の話に耳を傾けて、真剣に聞いてやろうと思います」

と話されたのです。

お父さんの心に、何が起こったのでしょうか。

目次

中学生になって変わってきた親子の会話

保護者会講演会の会場となった体育館

私は、小学校から高校までの児童・生徒を対象とした人権講演会のほか、保護者を対象とした人権講演会や子育て講演会でお話しすることがあります。

この中学校では、講演前に保護者会役員の皆さんと打ち合わせをすることになりました。

その席で、役員の方々がお子さんとの関わりについて、順番に話してくださいました。

「小学生のときは、学校であったことを何でも話してくれたのに、今はだんだん話してくれなくなりました」

「反抗期なのか、何か言うと口答えをするようになって、寂しいです」

親子の会話が少なくなったという話が続きました。

そのなかで、一人のお父さんは少し違っていました。

息子さんは、今でもよく話しかけてくるそうです。

ところが、その内容を「くだらない」「しょうもない」と感じ、あまり相手にしていないというのです。

その場でお伝えしたいこともありましたが、当日の講演のなかでお話ししようと思い、まずはじっくり聞かせていただきました。

消防士時代の体験と「生まれてくれてありがとう」

石川の講演を聞く中学生

講演では、テーマに沿ったオリジナルソングを歌いながら、消防士時代に経験した救急現場のことをお話ししました。

私の二人の息子がまだ保育園児だったころ、同じくらいの年齢の兄弟が乗った自動車の交通事故に出動したことがあります。

小さな弟は、その場で亡くなりました。お兄ちゃんとお母さんも意識がなく、重体でした。

救急隊員三人が、涙を流しながら病院へ搬送した、今も忘れることのできない現場です。

そのときのことは、こちらの記事に書いています。
生きていることの輝き

また講演では、私が幼かった息子たちの誕生日に、

「生まれてくれてありがとう」

と伝えた話もしました。

誰も話し始めなかった講演後の座談会

中学校の体育館で講演する石川

講演後には、参加できる保護者の皆さんと私とで座談会を行いました。

体育館に残った30人ほどの保護者の皆さんが、パイプ椅子を動かして輪になりました。

先生が、

「今日の講演の感想を話し合いましょう」

と進行されましたが、皆さんは顔を伏せ、私や先生と目が合わないようにしているようでした。

「座談会があるなんて、聞いてなかったよ」

そんな声が聞こえてきそうな、少し気まずい沈黙でした。

たまにありますよね。誰が最初に話すのか、全員が様子をうかがっている時間が。

私は司会ではなかったのですが、思わず口を開きました。

「皆さんのご家庭では、『ありがとう』を言い合うことはありますか?」

すると、真っ先に手を挙げたのが、事前の打ち合わせで「息子の話はくだらないことばかり」と話していたお父さんでした。

息子が生まれたときの喜びを忘れていた

お父さんは立ち上がると、

「先生、今日はありがとうございました。今日の先生のお話を聞いていて……」

と話し始めました。

ところが、そこまで話したところで涙がこみ上げ、言葉に詰まられました。

お父さんは、息子さんが生まれる前のことを話してくださいました。

奥さんのお腹に息子さんがいたとき、産科の先生から「死産になるかもしれない」と告げられたそうです。

次の検診では、たとえ生まれても順調には育たないかもしれない、その次には、重い障害が残るかもしれないと告げられました。

生まれるまでの数か月間、お父さんは重たい気持ちで過ごしながら、毎日、無事に生まれてくれることを祈っていたそうです。

そして、息子さんは無事に生まれました。

障害もなく、大きな病気をすることもなく、中学3年生まで成長しました。

お父さんは、涙をこらえながら話されました。

「息子が生まれたとき、あんなに大喜びしたことを、いつの間にか忘れていました」

元気に毎日を過ごしていることを当たり前に感じ、息子さんが悩みを話しても、相手をしていなかったことに気づいたそうです。

そして、

「これからは、ちゃんと息子の話に耳を傾けて、真剣に聞いてやろうと思います。息子が元気に生まれてきてくれたことへの感謝を忘れないようにしたいと思います」

と、嗚咽まじりに話してくださいました。

その場にいた保護者の皆さんも、先生方も、私も、涙を拭いていました。

話してくれることは、当たり前ではない

そのお父さんの話をきっかけに、次々と手が挙がりました。

「うちの娘は、小学生のときと変わらず、今もよく話してくれます。それが普通だと思っていましたが、うれしいことなのだと思いました」

そう話されたお母さんがいました。

また、娘さんが小さいときに奥さんを病気で亡くしたお父さんは、

「本当は寂しい思いをたくさんしてきたはずなのに、寂しいとは言わず、いつも元気に明るく振る舞ってくれています。宝物のような今の時間を大切にして過ごしたいと思いました」

と話してくださいました。

最初は、誰も発言しないまま終わってしまうのではないかと心配した座談会でした。

ところが途中からは、終わりの時間が来ることを惜しむような雰囲気になり、体育館の中がとても温かい場所になりました。

「くだらない話」と決める前に

毎日一緒にいると、子どもが元気でいてくれることも、話しかけてくれることも、つい当たり前に感じてしまいます。

忙しいときには、子どもの話を面倒に感じることもあります。

親から見れば、取るに足らない小さな悩みに思えることもあるでしょう。

けれど、子どもにとっては、親に聞いてほしくて話している大切なことなのかもしれません。

「くだらない話だ」と決める前に、まずは一度、最後まで聞いてみる。

すぐに答えを出したり、親の考えを押しつけたりしなくても、「そうか」と耳を傾けるだけでよいこともあるのではないでしょうか。

子どもは、いつか大人になっていきます。

振り返ってみれば、育て方に悩み、迷い、心配していた日々も、あっという間だったと感じるのかもしれません。

子どもが生まれた日のことを、ときどき思い出してみる。

そして、今日話しかけてくれたことを、少しだけ大切にしてみる。

それが、親子で過ごせる今の時間を大切にすることにつながるような気がします。

中学校・PTA・保護者会での講演について

中学校の保護者会やPTA、子育て講演会では、32年間の消防・救急現場で経験したことや、子育てを通して感じたことを、オリジナルソングの弾き語りを交えてお伝えしています。

命の大切さ、親子のつながり、家族への感謝について、参加された皆さんがご自身の家族や日常を振り返る時間になればと思っています。

講演内容については、子育て講演会のご案内をご覧ください。

中学生に向けて「ありがとう」を伝えることについてお話しした講演は、こちらの記事で紹介しています。

何人の中学生が「ありがとう」を伝えてくれるだろうか(中学で人権講演会)

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